コンテナガレージ

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店長はアイス  過剰反応10-4

 駅周辺は人口が多い。この時間でも数人が降りた。階段に通じる引き戸が開いたままである、誰も閉めようとはしないらしい。暑いので私も閉めずに空けておく。階段を上がり、改札を通過、さらに階段を降りて外に出る。蒸し返す暑さは消えていた。タクシー乗り場を通り過ぎ、三十分をかけて自宅に帰った。比較的に街灯のない道を歩いたためにあまり考え事には集中できなかった。メインの通りは明るさがあっても対向車のライトで目がくらみ、踏み出す次の一歩をランダムに不明確にしてしまうので、あえて一本なかに入った通りを選んだ。塞ぎこまない人はおそらく何らかの単純作業に没頭できる視野の狭い能力を持つのだろう。美弥都は風呂にお湯を溜める。リビングの窓を開けた。風が通り抜ける。彼女は一軒家を借りている。郊外でしかも最寄り駅は無人駅。コンビ二もスーパーも歩いて二十分はかかるだろう。なので、家賃は安い。荷物はほとんどない、使っていない部屋は一階に一部屋、二階にも一つ空いている。

 コーヒーを淹れる。海外のコンテストで賞を勝ち取ったドリッパーにペーパーフィルターをセット。お湯を沸かし忘れていた、店と錯覚したんだろう。一杯分の水を水道から薬缶に、火にかける。その間に洗濯機を回す。カバンからエプロンを取り出した時、ポケットから煙草と文庫本が登場した。お客の忘れ物を持ち帰ったらしい。ついでに煙草に火をつけた。台所に戻り、ドリッパーにお湯を注ぐ。タバコを口にくわえたままだ。薬缶のふたを取り、温度計で湯温を測る。九十二前後を目安に、ちょっと温度が高いか。美弥都は煙を吐く。左手で換気扇のスイッチを押す。離れたかかとを地面に戻す。台所に置いた文庫本に目を落とした。何度見ても表紙と印刷の文字は逆さまである。可能性を示唆する美弥都。印刷時に起ったありえない失敗による結果。二つ目、自作した作品。三つ目、特注品、あえて作らせたもの。四つ目、こういう商品だった。印刷の際に発生した不具合による商品が市場に出回ったのなら、印刷に携わる者が流した可能性が有力だろう。しかし、人気作家でもない過去の海外の哲学者、それも著作権が切れた作品は読者の興味を引くには魅力が弱い。自作はパロディを世に送り出し、取り扱われ注目される様を遠くから子供の成長を見守るように観察したいのだろう。あとは、特注品。これは扱いに気を配るはずが、表紙の角は折れている。お客は本の価値を知らなかった。そして、最後は一番可能性が高い。