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空気には粘りがある1-1

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 道道二二五号線、O市の外れ、S市とは目と鼻の先。真新しいアスファルトの境目が目立つ。ロードヒーティーグの工事が冬の到来を告げた最中に着工していたことから、道路工事費を消化して造られたと言われても文句はいえない。

 急勾配の坂道、一つ目のカーブにだけぽっかりとガードレールが取り払われている。その空間に死体が転がっていた。周辺住民からの情報によれば、その死体が倒れていた場所にはごくたまに車が駐車されていたそうだ。死体がある現場は木が生い茂り、道路を反対側は絶壁、眼下には数件の家屋が見られる。近くは、下の平地に下りていく階段が設置されていた。

 話にあった車の所有者はこの数件のどれかに住んでいるだろう。付近に駐車場は見当たらない。片側一斜線、それも坂の途中である。駆けつけた警察車両の行き場は数十メートル下った先の開けた民家の敷地に収められた。どうせ誰も来ないからとその家の主人はそっけなく事件については興味なさげに答えて、屋内に消えていった。

 四月二三日、午前三時二二分。携帯の時計で時刻を確かめる。ここ数日は事件とは無縁の生活を送っていたからなのか、不思議と夜中に起されてもいらだちはみられなかった。自宅から程近い現場に到着したのは今から十分前である。すでにパトカーが到着済みで熊田に遅れてもう十分後に制服警官では対処の仕様がないとの判断で事態収拾に、本部からの要請で鑑識と刑事が二名が到着した。刑事二人は熊田の後輩である。

「お疲れさまです。お早いですね」白手袋をはめながらこちらに近づいてくるのが種田である。彼女はスーツに軽量なスプリングコートを着て登場した。春と秋に彼女が着ている型のコートをよく目にするが毎年本質的な形は変わっていないように見える。素材や、細部の微妙な違いが今ひとつわかりかねる。コートの新調は服を取り替えただけで、心も新たにとの外側からのアプローチ。多くの者は、まるで本質を見定めていない。彼女を除いては。

 熊田は、本屋で最上段の棚から本を探すような角度で夜空を眺めていた。彼女たちが到着したことは、知っていたがあえてとっさには返答しなかった。種田に遅れて運転席から鈴木が登場する。相変わらずの痩身で数年後に激太りしそうなタイプだろうか。にっこりと真意の測れない笑顔をこちらによこす。

「早いですね」早いと早い、遅いと遅いと言われる。とても単純な発言だ。挨拶にくっついているように軽々しい。二人を現場へと導く。先導などと言う大それたものではなく、あとを二人がついてきただけなのだ。片側の一斜線の坂を下る方向の通行を止め、下り坂の初めに制服警官が道路工事の誘導係さながらに無線で現場をさらに下ったあたりの警官と交信のやり取り。通過する車の間を縫って三人は道路を横断する。幸いにも等間隔で配置された街灯が現場にちょうどあたっていた。

「亡くなってからどのくらいでしょうか?」現場に屈み込んだ制服姿の男性に尋ねる。ぬすっと眠そうな目が種田に向けられた。