コンテナガレージ

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摩擦係数と荷重2-1

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 暖簾が風に揺れる。雨から逃げるように二人は店内に駆け込んだ。

 「いらっしゃい」今日は先日の女性の姿は見えない、声をかけたのはこの店の店主であった。年齢は50代ぐらい。熊田たちはカウンターに座るなりコーヒーを頼んだ。男女2名がテーブル席に一組、カウンターの位置口付近に老紳士が一名、二階にも席があるようだが一階からでは気配は感じられなかった。

 「いませんね」種田が小声で話す。熊田が癖で煙草に火をつけた。

 「そうだな」がっくりと肩を落とすわけでもなく熊田は澄まして答えていた。

 「聞いてる」

 「二件の事件に関連性は?」

 「高いだろう、間隔が短い。それに、公に発表されていない点がいくつか類似する」マスコミにはまだ他殺か自殺の明確な明言は避けていた、それに被害者につけられた無数の擦過傷も公表を控えていた。

 「女性がターゲットでしょうか?」

 「狙いやすいのは確かだろうね。犯人の嗜好か犯行の行いやすさなのかまではわからないが」物騒な会話を跨いでカウンター越しからコーヒーが運ばれる。マスターは、軽く頭を下げて持ち場に戻る。二人は一口黒い液体を飲んでから話の続き。

 「次回に備える対抗策はあるのでしょうか?」

 「人に聞かないで少しは自分で考えたらどうだ」

 「これからの被害者には失礼ですが、次回の犯行がない限りは捕まえる要素がありません」

 「証拠を残していくだろうか」

 「第一の犯行で携帯を持ち去ったのは何のためですか?二件目事件では簡単に被害者の身元が割れました。つまり、最初は衝動的で次が計画的衝動に駆られていた。三回目も必ず発生しますよ」種田の視線はカウンターの背に天井近くまでの木製の棚に並んだカップとソーサーに注がれていた。

 「事件が起こって欲しいのか?」

 「いいえ。ですが現状で手を打つ手段はありません。被害者に共通性を見出せないのなら、犯行そのものからでしか情報は得られません」

 「うーん」熊田は煙を吐いた。頬杖を付いて半ば種田を無視するような形でいやいや付き合っているふうである。しかし、これも熊田なのだ。彼なりの距離の取り方であって相手を軽視しているわけではない。慣れたもので種田も暫く熊田の帰還を待った。