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摩擦係数と荷重7-8

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「よろしいのですか?」女性が目を丸くして反論を込めて問いなおす。
「仕事に焦りを感じながら作成するとどうしても歪や完成を急いでありきたりの商品にしかならない。雑誌からすれば、穴を開けられないのだろうがいくら前に仕事しているからといって相手方に従う道理はないよ。そちらが仕事ならこちらも仕事。急いで書いた絵が初めて見た私の絵だったとするとそれこそ、大損害だ。かわいそうだと思わないこと」この言葉に対する女性の返事はない。深く頭を下げて立ち去る。
「断ってしまいましたけど、よかったのですか?」
「いいも悪いもありませんよ。作成にはたっぷりとした時間が必要なんです。それを理解した上で私は仕事をしているつもりです。しかし、相手がいくら寄り添ってきたとしても、それは本心ではない。仕事を介した仲や、縁なのです。今のようにアクシデントで仕事を依頼してくるでしょう?もう忘れてしまっているのですよ、私達の仕事を。おいそれと片手間でそれも短期間で押し付けてくるのです。一回目の繋がりもこちらの仕事を理解してはいなかったのでしょうね」
「私はその芸術とは無縁なので、よくわかりません」
「刑事さんだって一緒ですよ」屋根田は腕を解く。「制限された情報だけを頼りに捜査をしてくれと依頼された後、なんの手がかりも見いだせない状態で、ああそうだったこんな情報もあったんだと、ひょいと横から隠されていた情報を差し出されたら仕事なんてやってられないでしょう」
「はぁ、……やる気はなくしますね」
「もちろん、会社もあれば社員もいる。だけど、それを念頭に置くと、どうしても後でしっぺ返しが来る。作品にはある種の表現が込められて、雑誌や写真や現物を直接見て写真集やギャラリーで作品が買われていく。いきつくのは、得たいの知れない何かを買って、所有し、いつでもどこでも眺めて作品をわかろうとすることなのです。もしも、開いたページの穴埋めに追い詰められて作品を創造すれば、得体のしれないなにかはなくなっていると私は思うのです。器用な人はできてしまうのかもしれない。ただ、私に向かない」
「恵まれています」種田はやっと言葉を発した。