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摩擦係数と荷重8-1

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 相田は銀行強盗の捜査に駆り出されていた。捜査といっても、事件の核心に迫る主要な捜査とは違い、捜査員交代の埋め合わせである。仕事は事件担当者からの指示を仰ぐ、受け身であり、担当者の判断が遅いために指示が出るまでの時間が長い。白昼堂々の強盗は今のところ成功している。警報機も押されなかったようで、犯人たちの身のこなしは監視カメラに映った映像からもよほどの訓練、シミュレーションをこなしていたとみえる。どの犯人にも無駄がないのだ。一人は、素早くカウンターに上り、拳銃を一発発射。一人は出入り口を封鎖。もう一人は客に向けて威嚇の銃口を向けていた。相田は現場検証が一段落した監視カメラの映像が望める警備室で映像の再検証をしていた。なぜこんな場所でのんびりと再検証をしているかというと、強盗たちに繋がる証拠が全くといっていいほど見当たらないのだ。探す場所がそもそも違うのではないとの意見も上がっていたが、強盗は犯行の瞬間が最も犯人に接近して、それからの時間経過に従って証拠はどんどん薄れていくのが定説である。犯人を見ていたであろう客も銀行員もその記憶は、明確に犯人像を捉えてはいないのが現状であり人相も背格好も脳内で作り出した全くの別人が描かれるのだ。そして、相田は捜査の立て直しのために現場の映像を再度解析する役目を仰せつかっている。応援を呼んだが与える仕事がないので絞り出した結果、与えられたのがこの仕事なのだ。
「検問にも引っかからなかったみたいですね」相田と組んだ山崎という捜査員がマウスを握りながら暇そうに言った。もうかれこれ4回目の強盗の瞬間である。強盗に入られる前後の1時間分も加えているから、眠気も襲ってくる。
「引っかかるわけ無いだろう。大体遅すぎるんだよ、利用できる交通機関だってたかが知れているんだ。ボストンバッグ4つだぞ。電車なんか使うわけないし、どうみたって車を用意している、それぐらい小学生でも思いつく」3本目の缶コーヒーを飲み干して相田は愚痴をこぼした。相田はどちらかと言うと、攻撃的、直接的で山崎とは正反対に位置する性格である。ただ、そのふっくらとした体型が言葉の攻撃性を和らげる作用があるのか、恐怖は感じない。
 コーヒーの残量を気にしながらが最初の一口目の大胆さはどこへやら、ちびちびと終わりを遅らせるように飲む相田である。