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摩擦係数と荷重9-5

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 種田は眠ってしまった。
 起きた時には景色は一変して、背の低い建物ばかりの田舎道を走っていた。冷たい風が首筋の温度だけを奪っていた。
「すいません。眠ってしまいました」
「別に構わない」
「すいません」
「なんとも思っていない」
「後で私が運転を交代します」
「運転中に眠られたら困るからいいや、その申し出だけを受け取っておくよ」
「すいません、うかつでした」種田は手のひらで額を二度三度叩いた。口元は固く閉ざされていて、怒りの色が目が滲べる。
「車に乗せてもらっているという感覚でも持っているのか?」
「一応は同乗者ですから。タクシーではありません」
「料金を支払っている運転手に同じ思いを抱いたりはするだろうか」
「それは……運転手にとっては仕事ですから、……贔屓目に見ても私はお客なので睡眠は許される行為です」
「対価を支払えば、何をしてもいいのか?」
「その発言は極論です。あくまでも同乗者の運転による目的地への移動に関しての言及です」
「では私に謝った理由は?寝ていても起きていても目的地にはつくだろうし、私と種田は目的地を共有している。仕事だからな」
「ええっと、そうですね。しかし、目上しかも上司という立場の人間に対しては非礼だと言われても仕方ない行為です」
「不毛な会話だ。もういい、やめよう」
「本当に申し訳ありませんでした」
「だから、止めろって。あっと、ちょっとまてよ」車は減速、片側3車線の路肩に車は止められる。熊田はズボンのポケットを探って上体を浮かせてやっと携帯を取り出し、応対する。「はい、ああ、うん。なに?うん、わかった、お前が先にいけ。こっちもこれから向かう」
「どうしました?」
「また事件だ」