コンテナガレージ

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重いと外に引っ張られる 1-14

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「なにか、わかりましたか?」彼女に雑談のための余裕はないらしい。常に仕事を絡めた発言しかないのだ。
「車に乗っていないのは確かだ」鈴木は二重玄関の引き戸を閉めて熊田のもとに駆け寄る。「この車も今日は使っていません。それに、残り五軒の家の車もトンネルを抜けたりはしないと言っていました」
「あの古ぼけた建物はなんだ?」熊田は顎をしゃくって女性が応対した家の斜向かい、灰色の建物をさす。
「誰も住んでいないって話ですよ。ちょっと待って下さいね」道路を横断して建物の敷地に足を踏み入れ、ベニヤ板で封された玄関に小走りで駆けよる。「アパートです。ええっと、海凪荘と書いてあります」剥がれたタイルに微かに残る文字を鈴木は屈んで読み取った。
 トンネルから国道までは約300メートルの距離。国道と合流場所に行き着くには最後に急勾配の坂を登る。左車線の合流にも困難であるのは、ちょうどカーブした曲線の最大半径の直後に道が繋がり、しかも国道に対して道路は斜めでなくほぼ垂直に接続しているから厄介なのだ。カーブで車速が落ちているとはいえ、グリップの大半をコーナーの曲がるためにつかい、かつ予告もなくひらけた視界に合流する車が飛び込んでくる。大型車や小回りの効かないワゴン車はトンネル車高制限も加味してやはりこの道を通りはしないだろう。
 国道との合流地点に移動した熊田にはそのように頭に考えが浮かんだ。
「何か思いついたのかな?」鈴木が種田に投げかけてみるが彼女からの反応なかった。本当は車がこの道に侵入してこない。トンネルの前後にテープは貼られているが、国道との接続部は現在、車の走行を許可している。「聞いている?」
「すべての質問にこたえなくてはいけませんか?」反対に質問で返された。
「いや、そうとは言い切れないけど、普通は返事ぐらいするだろう。だって、それだったらいないのと同じじゃないか」
「また普通とおっしゃいましたね。何度も言いますが」
「分かった、分かった、僕と君とでは普通の基準が違うっていうんだろう。はいはい、ごめんなさい」
「熊田さん戻ってきますね」タバコを口に咥えて熊田が坂を降りてくる。海風が夕刻を過ぎると一段と際立ってくるようで風自体も若干強まった感じを受ける。
「……熊田さん?」焦点の合わない目で何かを見ている。鈴木は熊田の変化を感じて余所余所しく聞いてしまう。
「鑑識が帰ってからそろそろ一時間か、あと一時間でおおよその情報はもたらされるだろう……」大きく煙を吐いて灰皿に押し付けた。「署に戻るぞ」熊田の言葉で3人は駐車した車にそれぞれ乗り込み、クラクションで見張りの警官に挨拶をして帰っていった。