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重いと外に引っ張られる 3-1

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 捜査会議は翌日早朝からも行われて、主に鑑識からの追加報告の伝達だけでその他には捜査員からの報告は上がって来なかった。会議の終わりが、今日の捜査の始まり合図といったほうが正確だろう。会議は埋め合わせのお飾りであってもなくても良かったのである。
 出勤時間の10分前に種田はデスクに座っている。通勤の電車の到着時刻が出勤時間と重なり合うのがこの時間しかないのだ。前後の時刻は早すぎるか遅すぎるかだから、ゆっくりと駅から署までの歩行でやっと10分前なのだ。雨が降りそうで降らないぐずついた薄曇り。薄手のコートが必要かもしれないと思い、今日は羽織ってきた。真っ黒のコート。いつものように顔に化粧っ気はない。
 部長のデスクに一枚の紙。そこには、昨日発見された佐田あさ美の司法解剖の結果が示されていた。種田は一瞬でそれを読み取ると自分のデスクに戻り目を閉じて読み取った内容を脳内で再現した。
 全身の付着物は、使用済みのエンジンオイルである。人体や服から垂れずにいたのは、空気や汚れによって粘性が増していたためと思われる。また、オイルは大量に市販されている商品であることが判明し、販売ルートからの特定は困難であると推察される。死因は外傷による頭部への打撲。硬質の物質で強い衝撃が加えられた形跡あり。その他に目立った外傷は見られない。妊娠の有無はなし。
 妊娠は重田さちの前例から報告するように検視官が気遣ったのだろう。早手亜矢子の時は何も書かれてはいなかった。体にエンジンオイルをかけたのには何か特別な理由や意味またはメッセージが込められているのだろうか。殺された、他殺だとおおよその人があの光景を見ただけ判断する。しかし、殺人とオイルは同一人物のよるものか。一色単にしてしまうには時期尚早であると、種田は思う。事件についての、一連の犯行も模倣犯の存在によるとの考えも浮かぶ、可能性はゼロではない。ただ、捜査の方針はあくまで関連性の見解に留まっていた。
 メンバーは鈴木、相田、熊田の順で部屋に入ってきた。種田は全員が揃うまでまぶたを下ろした状態を維持していた。
 熊田から本日の仕事内容が告げられる。「鈴木は早手美咲の事件当夜の足取りを探ってくれ、屋根田の関係も。相田は、重田さちの交友関係をもう一度調べてほしい、鈴木が見逃していた情報が浮かんでくるかもしれん」相田の視線に鈴木がテヘッと笑いでごまかす。「私と種田は佐田あさ美の出版社に向かう。午後に一度連絡を入れてくれ」
「もし、凡ミスで情報を逃していたら昼飯はおごってもらうからな」当たり前だと言わんばかりの相田の物言いに鈴木も弱腰でも反論する。