コンテナガレージ

サブスク・日常・小説の情報を発信

自作小説-店長はアイス

店長はアイス  過剰反応8-4

「見つけたのは生徒さんですか?」「はい、何人かがそこの階段を降りたときに見つけたようでして、私は列の後方を歩いていましたので、生徒が声を上げた後に駆けつけました」教師は時折、言葉を選び、溜めて記憶間違いを懸念し慎重に話した。仄かに、香水か…

店長はアイス  過剰反応8-3

二人のやり取りを傍らで聞いていたあきれた鑑識の女性がきつい口調で言った。「遊んでいるのであれば、死体を車に運んでもよろしいですよね?」たじろいだ鈴木が頷く。彼女はもう一人の鑑識を呼ぶ。「ちょっと、後ろ持って。さっさと動く。こんなところで時…

店長はアイス  過剰反応8-2

「ええっー!やっぱり、でもどうしてこの人が死んでいるんです?殺された?いやいや、だって……、でもそうか、第一発見者だから殺害現場を見たって犯人に思われていたのかも」「勝手に殺人だって決め付けるなって言ったろう。鈍器で殴られただけだ。そういう…

店長はアイス  過剰反応8-1

「事件の発覚の翌日に別の死体が発見されるのは前代未聞ですよ。上層部に睨まれなきゃいいですけど」半袖の鈴木が手を合わせる。屈んだのは死体を、顔を拝むため。手を合わせたのは単なる儀式でもちろん、死者の顔を覗く許可を得たのではない。日本人である…

店長はアイス  過剰反応7-4

黙っていれば、余計な考えが支配する。急がせるんだ。私は、何も考えなくても生きられる方法を見つけたではないか、もうあの人さえ生きていれば、生きる喜びを持ち続けられる。 大嶋八郎は立ち上がって見上げた。しかし、また体はベンチに戻された。「あれっ…

店長はアイス  過剰反応7-3

振り返り、高台を見上げて、前方それからヨットハーバーを順々に視線を走らせ、テープをくぐった。ベンチに私は彼女と同じ格好で座った。空が見えて、数えるには小さすぎる明かりが信号みたいに明滅。スーッと海風があたりをさらう。今日一番の自然な冷気だ…

店長はアイス  過剰反応7-2

私はおかしいのだろうか、大嶋八郎は、駅に直結するショッピングモールまでの連絡通路を歩く。左右のガラスは窓がなく、さらに空間の空気は生暖かい。夜になっても微熱が続いているみたいだ。冷めない熱。放熱すれば朦朧さを味わえない、そう思うと冷水を浴…

店長はアイス  過剰反応7-1

大嶋八郎の帰宅時間は通常勤務とほぼ変わらない午後十時過ぎであった。冷涼な空調が効く電車から一歩ホームへ出ると蒸し返すような熱気が瞬時に体に寄り添う。呼吸も幾分苦しい。脂肪のせいもあるだろう、もう少し体重を落とさないと。しかし、前よりかは、…

店長はアイス  過剰反応6-9

「ちょっと、相田さん、急にリアリストですか」「お前といると現実を見つめなきゃって思うわけだ」「でもですよ、死んだらお墓に花やお供え物をするわけですから、死んで間もないならもしかすると間に合うかもしれないって思うのは判ります。けど、もう亡く…

店長はアイス  過剰反応6-8

彼女の死に関わりたかった?もしくは、憧れていたからか。 大嶋の一方的な求愛の末路に彼女の死が選ばれた? 本の所有については、彼女の周囲に近づけば情報を手に入れられる。非合法に手を染めない合法的な業者に依頼してもいい、時間と費用が十分ならの話…

店長はアイス  過剰反応6-7

「鈴木が言った内容がほぼ正解だ」 熊田が次の言葉を吐こうとした瞬間、種田が通常よりも表情に必死さを加えてドアを開けた。「紀藤香澄の指紋が二冊両方の文庫本から検出され、さらに両者に共通した指紋がもう一つ検出されました」「誰のだ?」熊田は低いト…

店長はアイス  過剰反応6-6

「すいません、じゃないや、ありがとうございます。すいませんって使わないことに決めたんですよ。だって、親切にされて謝るのは感謝を表しているとは思えませんから」得意げに鈴木は言う。彼はおいしそうに煙を吸い込んで吐いた。 「そういう意味の謝罪とは…

店長はアイス  過剰反応6-5

「現場の高台、ベンチの裏から落ちたとして体に傷が付かないのは不審だ。また、頭に受けた衝撃が局所的であったことは、頭蓋骨に広がる衝撃の度合いが物語る。彼女、被害者は頭よりもより小さな硬質の物質によって損傷を加えられたとの考察、調査結果だ」 「…

店長はアイス  過剰反応6-4

「直接死体を確かめたいんだ」 「とくに不審な点はない、と捜査を引き渡した隣の課の奴らが言ってませんでしたか?」 「うん。ただ、まじかにじっくりと腰をすえての観察はできなかった。運ばれていく時だったからな」 「あの、相田さんに見てもらえばいいん…

店長はアイス  過剰反応6-3

足音が増えた。ひげを生やした男性、帽子を取り、熊田たちに会釈。彼が話す。「この人なら見ましたよ。お独りで確か、日曜の開店間もない時間にいらしていたと」 「一人でしたか?」 「ええ、お独りです」 「この人について覚えていることがなにかありますか…

店長はアイス  過剰反応6-2

「ブログの内容は説明文。彼女の感想は書かれていないんじゃないのか。鈴木?」 「言われてみれば、そうですね。味についても、はい、おいしいとかは一言も書かれていません。ページのレイアウトも真っ白で初期設定のままみたいですし」対象物や体験の見解、…

店長はアイス  過剰反応6-1

「紀藤香澄の行動は、ネットに記録が残っていました。更新日は、六月三十日で止まっていますね」鈴木が後部座席で窓を閉める、今日は風が強い。「いわゆる、食事の記録ですね。今日の出来事とか特定の思想は書かれていません。なんでしょう、良く言えば簡素…

店長はアイス  過剰反応5-4

「今日のプレゼンもどこかで見かけたような商品でしょう……、売り上げの期待は見込める。しかし、ヒット商品とはまったくといっていいほどかけ離れたもの。大嶋さんが責任者ですから、わかっているでしょう」 「だから、次回はやめにしようと言っている」 「…

店長はアイス  過剰反応5-3

「商品は誰が買うんだ?」 「男性です」副室長は呟く。 「君は買うかね?」 「……」無言、日本語を忘れてしまった、あるいは適当な言葉が見当たらない副室長である。 大嶋は付け加えた。「もちろんデータは信用に値する、その通りに倣った商品が売れることも…

店長はアイス  過剰反応5-2

「弁当はやめましたか?」四十代の副室長は年齢にそぐわない豊かで艶のある頭髪は多くの中年にひがみの対象であった。大嶋もかつて何度か心の中で悪態を付いた過去があるが、現在は有能で若々しい部下という認識で考察をストップさせていた。考えなければ足…

店長はアイス  過剰反応5-1

慌ただしい出勤に、大嶋八郎は昼食の弁当を家に忘れてきた。貴重な小遣いに手をつけるのか、とショックで丸みを帯びた姿勢が食堂へ向かう廊下、窓にうっすらと自分の姿が映った。コンビ二での我が社のシェア獲得をコンセプトに掲げた今回のプレゼンは高評価…

店長はアイス  過剰反応4-4

タイミングよく、高齢の女性が籠をレジに置いた。私が対応する。袋に店長と林道が手際よく、皿を紙で包み、店長が開いた袋の口にビンの地ビールを先に入れて、最後に割れ物の皿を一番上に置いた。 「ありがとうございます」私に続いて店長、林道が声を出した…

店長はアイス  過剰反応4-3

「疲れたでしょう、働きづめだもんね。いいんだ、みんなも了解している」 「そういうことではなくて、疲れてはいますが、この時間から切り上げても一日の休みと数えられるのかと聞いているのです」多少口調が強くなったように思う。店内のお客はレジから離れ…

店長はアイス  過剰反応4-2

「仕事ですから、仕方ありませんよ」 「あの、林道さんの今週の休みはもう終わっていてね、……その言いにくいんだけど、来週まで紀藤さんに休んでもらうわけにはいかなくて。申し訳ない」エプロン姿の店長は短くなった夏使用の頭を下げた。彼の奥さんは美容師…

店長はアイス  過剰反応4-1

本来なら今日は休みだったのに、朝早く電話で起こされたのは憂鬱以外の何者でもなかった。胸の内を写したかのうような空の曇り。風が冷たいのは救いかもしれない。私は同僚の代わりに休日を返上。休みを私にお願いした彼女は確か、昨日休んでいたはずだ。と…

店長はアイス  過剰反応3-5

「わかった」ここでは明らかな溜息を熊田はつく。「相田には他殺の線、とりわけ股代修斗の犯行を最有力候補として調べてもらう。あと、鈴木と常に行動を共にすること。単独の捜査は認めない」 凝り固まる表情筋の一部、頬が軽く痙攣を起こして、相田はかろう…

店長はアイス  過剰反応3-4

「股代です!」「思い込みが多分に含んだ結論には許可を出せない。私を説得するなら、彼女、紀藤香澄がなぜ自殺ではなく他殺なのか、それと彼女を股代修斗が殺害したという明確な解説をここで今私に施してくれ」「鈴木がいます」「こいつが、いると言えない…

店長はアイス  過剰反応3-3

「熊田さんはいつも思いつきで動かれているように私からは見えます。理路整然と説明がされないままで、捜査に出る事だってあったはずです。いいえ、あなたは多くを語らない。内にしまう推論に私が行き着いた考えも示されている」「ああ。けれど、誰にも私は…

店長はアイス  過剰反応3-2

「ハァ、なかなかどうしてこればっかりは」相田は膨らんだ腹部をさする。「体重を減らせばおのずと表面積も減る、汗の量も減少する」「今日は厳しいですね」「そうか?事件だから気を引き締めているのかもな」「被害者の自宅の様子を聞きましたけど、なんだ…

店長はアイス  過剰反応3-1

捜査の権限が末端の署員である熊田たちの課へ譲渡される要因は、事件の異質さや複雑さ、現在抱える事件で手が回らないなどが考え付く。がしかし、とりわけ今回の事件の異質さはあまりというかほとんど感じられなく、無味無臭に近く、熊田たちにはまずもって…