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自作小説-店長はアイス

店長はアイス  死体は痛い?3-6

「まあ、仕事といってもさあ、時間を共有していくうちにそれとなくあえてこっちから聞かなくってもわかっちゃうことって、あるんじゃないんですか」林道は相田、鈴木へ順番に視線を送る。「もうたぶん、ここに呼ばれるときに調べていたんでしょう?私と店長…

店長はアイス  死体は痛い?3-5

鈴木たちが食事を平らげ、食後の至福のひとときを堪能していた最中に、一人目の店員である、林道が姿を見せた。店のトレードマークであるエプロンを取り去ると、年頃の女性そのものであった。鈴木は席を移動し相田の隣に座った。アイスコーヒーを彼女の注文…

店長はアイス  死体は痛い?3-4

「この店、休憩に入り次第、社員の皆さんに来てもらいましょうか?」鈴木が言った。やっと湿った手から開放されたのだ。 「わかりました。では、そのように伝えておきます。最初の休憩は、お客の入りを見つつですが、一時半から二時の間に入ります」現在の時…

店長はアイス  死体は痛い?3-3

「場所を移しましょう」顔色がそぐわない店長は社員に断りを入れて、出入りの激しいチェーン店のコーヒーショップで話を続けた。先導する股代は落ち着きなく後方それから左右に視線を走らせていた。席も店の隅を選んだ。股代は入り口が見える緑のシートに腰…

店長はアイス  死体は痛い?3-2

「ええ、そうなんですが、何か思い出されたことはないかと思いまして」 「あの、店内では話しにくいので、どうぞうらへ」 「そうですね」 倉庫に通された鈴木と相田は、中央の椅子に座るよう促された。人の気配がする。ドアから左手奥にはぼんやりと明かりが…

店長はアイス  死体は痛い?3-1

art departmentは瀟洒な住宅地に店舗を構える。新緑の季節から青々とした深い色合いに街路樹が表情を夏仕様へと変えていた。鈴木の車は通りの反対側に止められた。駐車が認められた区域である、相田が長時間のドライブで凝り固まった手足を際限なく伸ばして…

店長はアイス  死体は痛い?2-5

「狸寝入りか?」 「死んだふりです」 チャイムが響いた。廊下がにわかに騒がしくなる。ドアが開く、数人の教師が入室。こそこそと何かを入り口付近、ドアを閉めた直後に、教師たちが囁きあう。本来ならならば来客の見えない場所で行う行動だ。ソファに近い…

店長はアイス  死体は痛い?2-4

「曖昧?まあ、そういえるか」 中腰の種田が言う、片手はデスクに。「殺しなら、堂々と手法の披露に心血を注ぎ、犯行に及ぶでしょう」 「突発的だったのかも。あるいは、短絡的な性格で考えること自体が億劫だった」 「二件ともですか?」 「メディアに取り…

店長はアイス  死体は痛い?2-3

「自殺の線を捨てていない、そう捉えてよろしいのですか?」女性にしては種田の声は低い。彼女がきく。 「受け取るのは自由だ。こっちに権限はないよ」熊田は肩をすくめ、首を僅かに傾げた。 「早急に判断を」 「種田、ちょっと落ち着けって」また種田の例の…

店長はアイス  死体は痛い?2-2

「化学じゃなくって、物理ってやつですか?」鈴木が相田に救いを求める。彼は文系の出身で理系分野の知識は皆無に等しい。 「リンゴが落ちたとか、落ちないとか。ピサの斜塔から落としたとか、そんな話には興味なし」相田が怒ったように言う。 「へぇー、や…

店長はアイス  死体は痛い?2-1

鑑識の発表により大嶋八郎の死因は頭部の外傷によるものと判明した。使用された凶器は依然として発見には至らず、形状の特定もはっきりとした回答が得られていない状態である。さらに、死体の上着には文庫本がしまわれていた。逆さま文字の「幸福論」である…

店長はアイス  死体は痛い?1-5

「なにしてんだろう、わたし」呟きが館内放送にかき消される。答える相手が必要なのか?ううん、いらないと思う。だったらどうして、涙が出ているんだろう。さっぱり理解できないよね。あなたって弱いの、それとも水を飲みすぎたの?涙って流れ出たら、それ…

店長はアイス  死体は痛い?1-4

そんな事を考えつつも、彼女は平気で二時間を過ごす。周囲は彼女以外複数で来店している。コーヒーも空だった。空腹を覚える。通路を人々がたらんらんと休日のスピード。またスイッチが押されたみたい、自分で制御できないのが難点だった。わかっている、昔…

店長はアイス  死体は痛い?1-3

お客はかなりの距離をこの施設内では歩かされる。目的地を決めずに歩くものなら、平気で一キロ、二キロは踏破できてしまう。車に乗って買い物に来て、歩き、また車で帰る。商業施設内は一度に複数の希望を叶える理想的な空間だ。しかし、余分な時間を費やし…

店長はアイス  死体は痛い?1-2

にぎわう複合施設。いつものように休日の外出。休日に外に出ることが日課になった私は、駐車場代の無料を狙って本屋でお金を使う。その後、衝動的に服を買った。淡い色、グリーの夏らしい服、これから着る予定の服。当然試着はしない、手に取りサイズをタグ…

店長はアイス  死体は痛い?1-1

強大な悩み事に真摯に取り合うのは愚者の行いである。それぐらい、私の頭で理解できるのに、くどくどと作者は語る。最初、読み始めの感想である。読み進めるうちに、作者の文体にもなれてすらすらとはまでいかなくても、だいぶ本来のスピードで読めた。本を…

店長はアイス  過剰反応10-5

湯温が下がり適温に。中挽きの粉を二杯、そこにお湯を注ぐ。蓋を閉じてタイマーを四分にセット。この煙草が灰に変わる頃がちょうどいいか。一本目の煙草をステンレスの灰皿に押し付ける。換気扇をオフに。タイマーがお知らせ、軽くドリッパーごと攪拌。大き…

店長はアイス  過剰反応10-4

駅周辺は人口が多い。この時間でも数人が降りた。階段に通じる引き戸が開いたままである、誰も閉めようとはしないらしい。暑いので私も閉めずに空けておく。階段を上がり、改札を通過、さらに階段を降りて外に出る。蒸し返す暑さは消えていた。タクシー乗り…

店長はアイス  過剰反応10-3

先ほどのコンビ二と百メートルの近距離にありながらも駅前にもライバル企業のコンビ二が営業をしていた。しかし、数ヶ月前の朝に特徴的なブルーの店舗が真っ白の外装にはや代わり、夜には既に内装までが撤去されていた。灯りがなくなると駅前はさらに閑散と…

店長はアイス  過剰反応10-2

「そうですか。あの、お会計を」 「店長」美弥都は店長にやっと帰れると、呼び名に込めた。右手を差し出す。「そちらがレジです」 「覚えていないのですが、私、何か迷惑をかけたでしょうか?」恐る恐るお客は途切れた記憶を補おうとする。へりくだった物言…

店長はアイス  過剰反応10-1

喫茶店の営業時間を過ぎて、約三十分。店内の掃除、後片付けはほぼ完了に近く、カウンターに突っ伏したお客が日井田美弥都の帰宅を妨げる。状況は最悪、彼、いいや気を使う必要はない、中年の男は体外にアルコールを振りまくと、コーヒーを注文するや否や眠…

店長はアイス  過剰反応9-6

「しかし、忘れ物を安易に捨てますかね」 「故意にだったら?間違ってか、あえて捨てたかにこだわる必要はない。被害者の死と本との結びつきを知られたくはなかったら、本をとっくに処分しているはずだ。なのに不確定なゴミ出しを今日まで放置する行為は矛盾…

店長はアイス  過剰反応9-5

二人の間で交わされる言葉遣いが咄嗟に口に出る。思った事を口にするのは一種の能力、才能だろう。目の前の人物が見えていないのだ、視界に割り当てられるセンサーはごく僅かとはいっても、彼女たちは指先や繊細で細かな作業に没頭はしていない。これが電車…

店長はアイス  過剰反応9-4

「申し送れました。私、O署の熊田です」 「同じく種田です」 「警察?」従業員の二人は顔を見合わせる。 「この方が先月の二十三日にこちらに来たと思うのですが、覚えていますか?」熊田は写真を見せる。二人が顔を近づけてそれを確かめる。一人、背の高い…

店長はアイス  過剰反応9-3

自然を信じきった店内の装飾。熊田は一人で思いを馳せる。子供の頃に憧れた秘密基地を思い出した。木の上、枝を介して不安定に板を無造作に紐で括りつけた子供二人がやっと座れる程度の空間。木の根元には、ダンボールと重い石がその四隅を風から守る。共存…

店長はアイス  過剰反応9-2

「私にですか?」 「従業員はほかにいらっしゃいますか?」熊田は彼女が顔を出した場所に視線を送る。そちらに人の気配、摩擦音や金属音が聞こえた。 「私を含めて二人です。この後、接客のバイトが二人来ますけど……」目をぱちくり、瞬きの回数は緊張が高ま…

店長はアイス  過剰反応9-1

平日の午前、飲食店は開店準備に忙しいらしい。表から声をかけても出迎えがない。仕方なく、熊田は不審者ではない、これからお店に入りますよ、とそういうニュアンスで店中に侵入した。種田もぴたりとそれも無言、無表情で熊田に続く。廃墟や遊園地のお化け…

店長はアイス  過剰反応8-7

鈴木は高台の階段を上る相田を追った。現場保存は制服警官が任せた。そう言えば、昨夜は現場は誰も見張っていなかったのかと、思う。「相田さん、殺人事件の現場にその事件当日の夜に警備がつかないのは、変でしょうか?」階段、広くなった踊り場で汗を掻い…

店長はアイス  過剰反応8-6

「ちょっとみんな、刑事さんの話きいてもらえるかな?」しゃがんだ生徒たちはぐったりと覇気がない。「おじさんでしょう」子供の何気ない発言だ、取り合うなとすずきは言い聞かせる。「ベンチに寝ていた人を最初に見たのは誰かな?」「死んでたんだよ」男の…

店長はアイス  過剰反応8-5

「お子さんの卒業から、大嶋さんとはお会いになりました?」「会ってはいない、と思います。ご兄弟はいないようでしたから」「一目見ただけで大嶋さんだと、良く気づかれましたね。深い意味はありません。その仕事柄、大勢の人から話を聞く機会が多いとあま…