コンテナガレージ

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至深な深紫、実態は浅膚 5

着替える暇は与えられなかった。警察が部屋に押し寄せる、時刻は深夜一時あたり、数時間前ベッドに入ったアイラ・クズミは、マスターキーで開けたと目される怒涛の侵入者たちを片目をつぶり、寝ぼけた意識で見据えた。彼らを先に部屋から追い出し、わずかな…

至深な深紫、実態は浅膚 4

『彼女の前では、放縦な私が枷を設けたんだ、すると意外とこれまたどうしてか、世間が私に優しく振舞うの。今までのそっぽを向いた無関心を忘れたかのようにね。本来、人っていうのは、自分に神様みたいな啓示を与えていたんだ、それが内外の境目があいまい…

至深な深紫、実態は浅膚 4

『一発目が私でよかったのか、悩みましたよ、当然です。意外とこう見えて神経質なところがあるんですよ私にも。って、会ったことがないのですから、なにを言っても私の妄想にとられしまうので、前置きはこのぐらいにします。季節の、近頃の他愛もない、上辺…

至深な深紫、実態は浅膚 3 

「記念館の真裏からは出られないのですね?」アイラは裏には廻っておらず、右手ついさっき通ったコンクリート造りのパーゴラを前日に眺めて、左手はご利益がありそうな大木の洞を思わせるぽっかり開いた角の取れた外壁の穴を数分観察するに留まった。 「そち…

至深な深紫、実態は浅膚 3 

意識が逸れる、疲労の蓄積が主な要因。計十二曲の演奏だった。プラスアンコールの二曲。開演から一時間半を目処に演目は行われた、陸上競技で目にするデジタル時計をホール内に配置、私が見える位置、ちょうどお客の左後方に私だけが見えるように無理を言っ…

至深な深紫、実態は浅膚 3 

会場の雰囲気を読み取る感覚は以前に増して、感度が高まったように思う。探りを入れる前半の走り出しは低空で飛び出し、中盤から後半に多用する音の高鳴りに合わせお客の盛り上がりを上手く乗せた、と自負する。 自慢げに聞こえるだろうか、人はそうやって見…

至深な深紫、実態は浅膚 3

土曜日、午後二時開演のライブ。 演奏中にステージ袖で見切れる、マネージャーのカワニの表情は綻びっぱなしであった。最後の曲目(既にアンコールに入った)では、熱気に満ち溢れる記念館をアイラ・クズミは一人その中で、いや、一度照明の角度調節に姿をみせ…

至深な深紫、実態は浅膚 2

廊下、私が支配者。本体は見えずとも話し声は聞こえる。 スロープを降りる。 外気と戦って自販機となり、ベンチで読書に耽る男子学生。講義で見かけた顔だが、名前までは引き出せない、興味がない証。 そろそろだ、そろそろ冬だ、雪だと騒ぎ出す季節。 いつ…

至深な深紫、実態は浅膚 2

2アイラの曲を耳にした直後それはそれは、胸のつかえがすっと取れたの。映像だった、たぶん関東近郊の野外で彼女が伸びやかに無二無三の歌声で、雨の中、一人、たった一人で、それは、魂を削っていた。 涙が流れたの。浄化されていく感じだった。とても綺麗…

至深な深紫、実態は浅膚 2

図書館の一階、三辺を書棚に囲まれた狭い奥に長い閲覧室。過去の新聞がずらりと整頓、だからといって読まれるのは今日の紙面、大抵はスポーツ紙か全国紙、地方新聞や数日前の各新聞には目もくれないの。かく言う私もその一人。ではどうして席に着き、学ぶ姿…

至深な深紫、実態は浅膚 1

音を奏でるためには高音質で良好な環境が、耳に届けるには最適な空間が必要だろう。彼女は音についての考察に耽った。 屋外のコンサート会場もあるにはある。フェスなどがそれに当てはまるか。アイラは正面玄関を出ると、左手に回り、機材の搬入口となる会場…

至深な深紫、実態は浅膚 1

翌金曜日、うす曇と局所的に空が覗く空模様。 普段と代わり映えしない白いシャツと灰色のパーカーと薄く淡いジーンズ姿で音合わせに、アイラが挑む。望むという言い方は避けた、あくまでも公表してる通りこれは実験なのだ。誰がどう思うか、反響の度合い、返…

至深な深紫、実態は浅膚 1

ふらり、突き当りに到着する、きびすを返した。殺風景でありつつも厳かな雰囲気は、取り入れる様式が確立された概念であって、しかし体得そのままに造形物の構築にあてるのでなく、備わった日本式の素養を絡ませた、とアイラは感じ取った。 窓が悠々背丈を越…

至深な深紫、実態は浅膚 1

煙草を二本吸って、目指す会場に着いた。 彫塑的なコンクリート造は人や植物を思わせる、玄関の水平に伸びた庇はよく見ると五角形だ、奇抜な形に見えなかった。建物の材質と色合いそれと年季が主な作用だろうか、月日が鋭利なとげとげしさを取り去ったのかも…

至深な深紫、実態は浅膚 1

話は一ヶ月前に遡る。 縁遠い会場、人数の制限、一人一県一度きり。これらの達成目標を叶える会場であれば、古びたライブハウスも大歓迎、しかも場所は当日までこちらに知らせない、と私が提案をした。カワニは表情と態度に受け入れがたい心理を表していたが…

至深な深紫、実態は浅膚  1

十月二日木曜、天候は艶やかな秋晴れの青。空が高い、空気がおいしい、と口にしたくはないが、長引いた東京暮らしを言い訳に、ついうっかり無意識に口をついてしまいかねないのだろう。しかし、私には抑制が働く。 空港に降り立つ、ギターは機内に持ち込める…

白い封筒とカラフルな便箋

「アイラさん、厄介な事件でしたけど、犯人の目的は何を求めた行動だったのでしょうかね?」しみじみとカワニはこぼした、喫煙室の透明な壁と天井の境目を首の角度から、彼が見つめる場所を推考した。灰皿の支柱を避けた彼の両膝が女性特有の仕草と重なる。…

白い封筒とカラフルな便箋

「僕を見くびってましたね。なんと、驚くなかれ、実は生放送の一週間前から放送予定日と時間をずーっと二十四時間サイト内のトップページで告知してくれるって言うんです。やるときゃやりますでしょう、僕も」 「そう」 「あれっ?なんか、こうよくやったと…

白い封筒とカラフルな便箋

「関係者全員にインフルエンザの予防接種を義務づけます、感染者がゼロだったツアーは偶然をすり抜けたに過ぎません。私を除く何人が事前にその危険性に気を払っていたか、おそらく二名が妥当な数字でしょう」 アイラは一瞥、カワニははたと我に返って、上半…

白い封筒とカラフルな便箋

ブースを先に出た彼はドアを押さえて、三つ目の書類内容を再確認、内容説明を告げた。 「これがもっとも受けいれてもらえるのではないでしょうかね。ライブツアーのことには一切触れません、と先方から言ってくれました。海外のメディア、僕は正直知りません…

白い封筒とカラフルな便箋

「と、いいますと?」アイラは、自信を通わせる彼にきいた。 「番組といわず局全体でアイラ・クズミの楽曲の貸し出し、放送内の発売に触れる所まで厳重な使用義務の停止を言い渡します、契約書もこの通り作っていただきました。専務の判子もここにもらってき…

白い封筒とカラフルな便箋

敬礼、振る舞いは軍人にみえた、アイラはもちろん軍人に会ったことはない。 「おめでとう」 カワニは何度も瞬きをこれでもかとばっさばさ、羽ばたいてしまうぐらいに風を巻き起こしかねない。「あっとぉ、本当にアイラさん……ですか、僕の聞き間違えだったら…

白い封筒とカラフルな便箋

カワニは腰に手を当てて、じっとこちらを眺めた。見据えたという印象は微量、訴えかける、とも異なる。察して欲しいが正解に近いか……。アイラは張りめぐらせたネットワークに膨らむノードを正解に位置づけ、カワニの態度を把握する。しかし、声は掛けない。…

白い封筒とカラフルな便箋

潔い、了解は二の次。すべての理解は決して現実に登場を許されないのだと気がついてた。わかる人がまだこの世界に生きていたとは正直驚きであった。嬉しいことに、エコという不可思議な言葉の乱用は、見て取れなかった。代わりに管理維持のために欠くことの…

白い封筒とカラフルな便箋

立ち止まってしばらく考え込んだらしい。アイラは自分を他人事のように思い、扱う。 背負ったギターケースのベルトを、片側だけ下ろした。 自宅や外の喧騒よりもこの空間はたんたんとして、優れた居心地。彼女はギターを、いつものスタンドにて立てかけた。 …

白い封筒とカラフルな便箋

力を込めた両手で、分厚いドアを開けた。 ここは凛と、張り詰めている。 表情が一定だ。吹き抜けの天井に、這うような壁の木目、一階ロビーの真上に位置する利点が特殊な室内に、空間を作れたか。 ブースの番号をいつも忘れる。その場を訪れたら、呼びかける…

白い封筒とカラフルな便箋

アルバムはデビューした昨年の、年間売り上げの二位にランクインをしたことで、契約は延長に継ぐ延長、年末の各音楽番組、雑誌・ラジオ、その他歌手活動に無関係な仕事まで舞い込むものだから、レーベル兼事務所・プリテンスは複数年の契約を結んだ。 彼女は…

白い封筒とカラフルな便箋

このような文言をレーベル会社・プリテンスのホームページ上に、載せた。アイラは、レーベル会社兼事務所スタッフの引止めを振り切り、掲載を断行した。そうして引きも切らない打ち寄せる反論、批判が殺到したのだ。けれど、賛同、賞賛、期待の声も同数見受…

白い封筒とカラフルな便箋

ただし、あの事件は一般的と呼ばれる事例に関わった者たちならば、口をそろえてその連続性、繫がりを同時に言ってのける。 過ぎたことに囚われる暇は、私にはない。 彼女は都心の地下鉄、駅、人もまばら。低層のビル街を歩く。通りに沿って歩道を進む、左手…

白い封筒とカラフルな便箋

見限ったとは、ニュアンスが異なる。もとより別々の生物世界として対峙するのだから。これがアイラの言い分。訊かれたので応えたまで。 先日のインタビューだった。 もう雑誌の取材は受けない、マネージャーに宣言したはずが、出稿前の最終チェックをこちら…