コンテナガレージ

サブスク・日常・小説の情報を発信

2019-01-01から1年間の記事一覧

あちこち、テンテン 3-4

店主が国見蘭の代わりに答えた。「許すのは誰?同年代とお客さんの世代とではまた意見は食い違うと思う。見え方、捉え方に平均は存在しない。だから僕は評価を下さない。あくまでも表には出さずにね。言葉に出さず思ってもいいだろう、しかしそれを共有する…

あちこち、テンテン 3-3

「店長が甘いから安佐がいつまでの手順を覚えようとしないんですよ」 「今日はテンパっただけで、予約のお客さんだって覚えてましたよ。四名様ですよね、蘭さんにも言われましたもん。それにジャガイモだって皮をむいて、茹でてる空いた時間、予約の下ごしら…

あちこち、テンテン 3-2

「具体的な日時はいえないよ」 「リルカさんはだってもう料理を任されています。私と年だってあまり変わらないのに、なにがいけないのですかね」 「なにがいけないと思う?」店主の問いに安佐の快活な返答が途切れる、店主は間髪いれずに続けて話す。「明確…

あちこち、テンテン 3-1

小川安佐は甘い香りを放つもうほとんどコーヒーの要素が希釈された飲み物を片手に、休憩から戻る。カウンターの片付け忘れた皿とグラスが目に入ると彼女は休憩時間の把握を間違えを想起、カウンター内にかかる時計に走った。「良かった。また、休憩を自分で…

あちこち、テンテン 2-3

三神は身を乗り出す。窓に手をつけて地上を覗いた。傍を歩いていた店員も三神の機敏な動作と視線の先に興味津々。しかし、ウエイトレスの立場を堅守、勇んで覗くことはしなかった。 傘は異様な跳躍をみせたように、三神は思う。手を離し、上空に放り投げたの…

あちこち、テンテン 2-2

霞み目に目薬をたらす。ティッシュの代わりにナプキンで目をぬぐった。三神のほかにお客は二人、両者ともPCを広げてる。三神の席は電源が確保されていない席である。三神はバッテリィの警告を目安に席を立ち、場所を移す。次の店もしくは自宅で電源を確保…

あちこち、テンテン 2-1

小説家家業に流れ着いたのが二年前の春。時が過ぎる早さは、新鮮さのかみ締めを排除してしまう守りの人格ではないかと、感じる三神であった。ビルの二階、通りを眺める窓側の席、天井までの窓の無言の働きかけは開放感が否応なく引き出され、また歩く人々を…

あちこち、テンテン1-3

「うまくいえないのですが、こう、おいしい味を引き出すには誰かの真似をしたらいけないと思ってしまうので、レシピ本とかを見れなくて……、味を作るのが怖くなりませんか?」 「真似るべきだと僕は思うな。だって、それっておいしいから本に掲載されて、おい…

あちこち、テンテン1-2

入店の男が口を閉じるまでの間にハンバーグの作業工程を終えるには十分であった。フライパンに整形した肉が匂いを放てば、彼は腰を上げて厨房を覗き、今か今かと食事を待ちわびる。皿に盛り付けるハンバーグを最後に添えてソースをかける。店主が料理を運び…

アンブレラは黒く、赤く プロローグ1-2

オープン前のキッチン。狭い厨房で今日のランチを仕込む。時刻は午前九時。外はいつの間にやら秋の気配を匂わせていた。朝晩は上着を羽織る日々に突入。そういえば、声変わりの虫の声も足元から聞こえていたのだ。薄手の手袋をはめ、合い挽き肉を粘り気が出…

あちこち、テンテン 1-1

「あのう、ランチタイムはもう終わりましたよね?」店頭の黒板に営業時間ははっきりと明記してあるし、飛び込んで店に現れた汗だくのジャケット姿の男性もその自覚は持っている言い回しであった。腑に落ちない、なぜ理解しているならわざわざ店に入り、尋ね…

アンブレラは黒く、赤く プロローグ1-1

「ここに決めます」 僕は建物に出会った刹那、心を奪われた。都会の狭小ビルの一階、大通りから一本中に入った路面店舗。ピザ屋の名残は、張り出したガラス窓からお手製の石釜。通りに立つと作業の様子が見て取れる。しかし、僕が惹かれたのは、ここの部分で…

店長はアイス エピローグ1-2

「貸しにしておきます」「勘のいい奴が煙草の銘柄であんたの正体に行き着く場面に出くわさないよう、用心するんだな。この煙草は目立ちすぎる。もっと一般的なのに変えるべきだ」車は、葉の影が覆いつくす車道を下っていった。めずらしい銘柄、たしかに男の…

店長はアイス エピローグ1-1

山の入り口、登山道とは言いがたいが、開けた切り開かれた道は人の出入りが過去にあった事を指し示す。部長は車から歩道に上部から日差しを遮る広がりの葉を仰いだ。住宅街と山との境目、低層住宅がたっぷりとした間隔で隣家の距離を適切に保つ景色。不釣合…

店長はアイス 幸福の克服3-8

新しい車が静かに音声をとどめてしまうぐらいに、うるささを不必要と抹消。多少の、走行音をわざと残す。ぶつからない緊急回避のシステム、死と隣り合わせがどんどん離れていく。省エネルギー、限りのある資源とは微塵も思っていない言葉だけの独り歩き。ナ…

店長はアイス 幸福の克服3-7

「事件を解決に導いたのは、たしかだ。手柄が欲しいのか?」「いえ、二件目の殺害を食い止める手段はなかったのかと思いまして」「情報の整理、人員の少なさ、可能限り最善は尽くした、落ち度があったか?」「まったくありません」「らしくないな」「……誰か…

店長はアイス 幸福の克服3-6

鈴木はまだ吸い始めの煙草を咥えて、相田は目を閉じてどちらも時計の針を止めていた。「生活には困っていません。それに、過去を調べるのは好きではない。むしろ、おもしろさは感じていない」「そうです、この人に勤まるわけがない」「あなたならすぐにでも…

店長はアイス 幸福の克服3-5

鈴木が場を支配する時間、熊田はぼんやり事件をたどる。腑に落ちない点は二人の死によって明らかにされない。生存してたとしても、いいや生存の場合はその事実にすら関与できない。日井田美弥都の頭脳が欲しい、熊田は思う。種田とはまた異なる指向性がどの…

店長はアイス 幸福の克服3-4

「お前、留守番は?」隣に流れ込んで座る鈴木に相田が冷ややかな視線。「僕にだって後輩の一人や二人いるんです。一声かければ、それはもうすっ飛んできます」得意そうな鈴木に相田はずばり指摘する。「買収したな」「なっなにを言って、バカな事を、いくら…

店長はアイス 幸福の克服3-3

「殺された、または自らで命を絶ったにしろ、その現場は異常と言える状況。何らかの意図、連続殺人の序章、世間へのメッセージ、特定の人物を対象に警告、自己顕示、快楽の意味合いも含む。死にたいのなら高所から飛び降りれば手っ取り早く、かつ確実性が高…

店長はアイス 幸福の克服3-2

「私も同行します」種田が言う。 「……、店であまり過激な言動はよしてくれよ。事件は解決したんだから」 「心得ています」 鈴木を置いて三名はO市とS市の境目、海道を逸れた海沿いの喫茶店に足を向けた。熊田の車が駐車場に納まる。黒ずんだブロック塀に三毛…

店長はアイス 幸福の克服3-1

林道、股代修斗の取り調べは上層部の手に渡り、手柄もそのまま熊田たちの手を離れた数週間後の昼下がり。熊田たちは通常の業務、つまりとてつもなく暇な状態に戻り、押し付けの仕事を待つ日々を淡々とこなした。部長の空席は、継続中。襲撃の一件からぱった…

店長はアイス 幸福の克服2-12

「えっ?」 「彼女は大嶋氏に声をかけた。以前から彼はこちらの店に通っていた、そして彼女は大嶋氏の想いに気が付いていた。ここでなぜ、紀藤香澄氏が邪魔になったのか。彼女はたんに股代氏と付き合いがあるだけ、既婚者の男性との。殺すまでの動機には発展…

店長はアイス 幸福の克服2-11

「事実?」鈴木がまた声を出す。 「まだ、私が話しますか。それとも股代さん、あなたがご自身でお話しになりますか?」 「既婚者ってモテるんですよ」股代が真っ黒な声、高めの音圧を倉庫中に響かせる。「刑事さんはひとつ間違っていましたよ。私は結婚をし…

店長はアイス 幸福の克服2-10

「あのう、店長、リペア対象の商品を回収に行くかなくても良いですか?お客様とのピックアップの約束に間に合いませんよ」 「林道さんもこちらにどうぞ」 「店長?」 「……」 「さあ、役者は揃いましたね。どこまで話しましたか?」 鈴木が手を挙げて言う。「…

店長はアイス 幸福の克服2-9

「大嶋氏が置いたとしてそれを犯人が持ち去らなかったと仮定すれば、それは犯人が本の事実を知っていたことになります。本の存在は公には公表されていません、事実はここに刑事たちと鑑識、それに現場に駆けつけた数名の捜査員ぐらい。外には漏れていない。…

店長はアイス 幸福の克服2-8

「熊田さんがファンキーすぎる」鈴木が言う。 「さて、ここでもひとつ課題が持ち上がりました。そう、大嶋八郎は殺害を手伝った、あるいは殺した人物です。動機の面から紀藤香澄を殺す大嶋八郎は妥当です。しかしその次はどうも繋がりません。彼の近辺で彼を…

店長はアイス 幸福の克服2-7

「その通りだ。頭蓋骨は放射状に割れていたのではない。局所的な穴が開き、その周辺に僅かにひびが広がっていた。人体は固定された状態で凶器が衝突、これが鑑識の見解です。ただしかし、どうにも腑に落ちません。よく考えても見てください。同じ場所で同じ…

店長はアイス 幸福の克服2-6

「そういう考えもあるでしょう。ただ、ここでは当てはまりません。何故か。大嶋八郎氏は一途に彼女を慕ってたからですよ、ベクトルの向かない行為対象にそれも死を持って後を追うでしょうか。死んだのですから、自殺なら説明がつきますけど、他殺の可能性も…

店長はアイス 幸福の克服2-5

処罰を甘んじて受け入れる刑事たちを一瞥、股代は憤慨を押し殺して再び椅子に座った。 熊田はまた歩き出す。「紀藤香澄さんはあなたのおっしゃるようにベンチで亡くなっていた。それに大嶋八郎さんも。ただし、同じ場所で亡くなったという事実は公には未公開…