コンテナガレージ

サブスク・日常・小説の情報を発信

2019-01-01から1年間の記事一覧

がちがち、バラバラ 3-2

「偶然かぁ」「同じ屋根の下に住んでいれば、リズムはどうしても揃ってしまうものなのよ。逃れられないんだから」 宅間の隣で、缶が音もなく合わさる。「一軒家を手放したのは、後悔してる?」宅間は、中空に呟いた。半開きのカーテン、ベランダとうっすら室…

晴れの休日にワークマンの温かい対応

昨日、ワークマンで冬用のジャケットを買った。数年前から、雪かきの際に着ていたスキーウエアが破れていて、我慢して使っていたのだ。 そこで、冬を迎える前にジャケットを新調したいと思い、目星をつけていたジャケットを買いに出かけた。ワークマンに入る…

がちがち、バラバラ 3-1

ひっきりなしに車が吸い込まれる、忙しさは普段の倍以上。送ってもまた、車が乗り込む始末。うれしい悲鳴。宅間隆史は、かつての自分を投影したかのような、仕事に追われる人種に駐車券を手渡す。ここ数年で料金の支払いはカードから電子マネーに移行、会社…

がちがち、バラバラ 2-4

「すると、この子は男なのですか?」目を丸くした仕儀が写真を注視、そのまま高い声で言った。 「いいえ、女の子です」 「どういった趣旨の質問ですか、これは?」 背筋を伸ばした姿勢で種田が言う。「あなたから虚偽を示す兆候は見られませんでした。写真を…

がちがち、バラバラ 2-3

「塗料を取った際に居合わせたのはこちらの店員とサービスを受けていたお客と思って間違いありませんか?」種田がきいた。 「ええ、そうです」 「以前に傘を持った人物を見かけたことは?」 「ありません」仕儀は言い切る。 「この顔に見覚えは?」一枚の写…

がちがち、バラバラ 2-2

午後。店の予約状況を鑑みて、従業員が続々、休憩という名の栄養補給になだれ込む。ほんの一時間ぽっきり。これでも美容師としては、長い時間の休憩に値する。週末はほぼ休憩が与えられないと考えて妥当な試算である。しかし、ほとんどが予約制に切り替わり…

がちがち、バラバラ 2-1

警察が訪れたのは忙しさがピークに達する午前の段階。颯爽と二人の刑事と名乗る人物が、昨日の事件について尋ねる。生憎、手がいっぱいでそんな暇はないと、言葉だけを聞くと乱暴やあつかましさが感じ取れるけれども、忙しいときとはおおよそ誰だって普段の…

がちがち、バラバラ 1-2

また考えが散らかる。昼の続きを書かなくては。 三神は別室のいわゆる書斎に移り仕事にとりかかった。自宅でも彼はノートパソコンを愛用している。デスクトップPCの購入は、ここ数年控えていた。負荷のかかるゲームをするわけでもなく、高画質の映像を求めて…

がちがち、バラバラ 1-1

昨日の正午過ぎ、S市中心部の通りで北西大付属小学校に通う九歳の少女が死亡しました。死因について、警察からの詳しい発表はありません。繁華街に近い場所で小学生がなぜ、平日の昼間に現場にいたのかについても不審点が残るといえるでしょう。さあでは、続…

あちこち、テンテン 8-7

終業時間ギリギリまでお客が引かなかったため、ディナーの売り上げは好調であった。厨房を片づけて、小川安佐と館山リルカは裏の更衣室へ、ホール担当の国見蘭はカウンターで本日の売り上げの計算。黒皮の帳簿に売り上げを記入。このあたりはまだまだアナロ…

あちこち、テンテン 8-6

「はい、弁解の言葉もありません」「根拠はありませんが、現象につながりを求めるのは安易な行動で、選択肢を増やすだけのこと。そういった事実があった、その程度認識だけにとどめておくのが肝要です。後、言い残したことは、なんでしょうか。色もあまり意…

あちこち、テンテン 8-5

「死因は?」「これはオフレコでお願いします。あなたもよろしいですか?漏れれば、情報漏えいで罪に問われるかもしれない、聞かないという選択肢もあります」「心配いりません。彼女にはもっとやるべきことが山積してます。噂話に興じる余裕などないはずで…

あちこち、テンテン 8-4

「別人だったのでしょう」店主が即答する。興味を示す様子は微塵も見せない。「黒い傘、赤の斑点、緑のコートをまったく無関係の他人が同様の格好で同じ時間に出現しますか?」熊田は試すように早口でまくし立てる。「別人ではあって他人ではない。示し合わ…

あちこち、テンテン 8-2

「店長、優しいんですね?」「僕が?なんで?教えて欲しいからその答えを言ったまでだよ。変わらないだろう、いつもと」肩をすくめた店主は再び白菜を切る。「朝とは言い方が違いますもん。間接的に安佐へも投げかけたのかなって」「どうだろうか。うーん、…

あちこち、テンテン 8-1

二時二十二分。文字の羅列。デジタルの表示は三つの揃った数字を毎日一から五までをカウント。必然でも偶然でも、何かの予兆でも、まして研ぎ澄まされた勘ではまったくない。業者だろうか、ドアベルがお客の入店を断る時間に鳴った。「ただいま戻りました」…

あちこち、テンテン 7-4

「いじめてるように見えたかい?」「いえ、問題ありません」館山は若干涙声で感情をこらえて、続ける。「私、作ります。今日からですか明日からですか?」作るの主語は、僕がこれまでに作った店のメニューだろう。「そうだな」店主は一拍間をおく。「明日か…

あちこち、テンテン 7-3

説教じみたしゃべりは館山には堪えたみたいであったが、彼女は店主の言葉を反芻し吸収、飲み込み、飲み下し、繰り返し取り込もうとしていた。料理は二品目をチョイスした。ひよこ豆がいいアクセント、もやしとの愛称が抜群にいい。ナンプラー独特の匂いも少…

あちこち、テンテン 7-2

午前十時に小川安佐が出勤、その三十分後に国見蘭が揃う。小川安佐の作業は通常の業務、店主の指示に従い食材の下ごしらえ。無論、店主も一緒になって作業をとり行う。外から覗かれるガラス窓の付近にて館山は一時間で試作品を二品作り上げた。日ごろ、メニ…

あちこち、テンテン 7-1

肉対肉の構図がひらめいた店主は鶏肉を解凍する。十枚のモモ肉。一枚を四枚から五枚に等分、四十人前から五十人前が作り出せる計算。十分だろう。隣町の警察が捜査をしているのが気に掛かった。管轄外での捜査は縄張りを持つ警察が嫌がる行為ではないだろう…

あちこち、テンテン 6-5

「床を、床を綺麗にしてもらうよ。落書きは犯罪だっ」声が裏返る宅間。「仲の良いお友達との殴り合いの喧嘩は暴行と判断されるのかしら?両者の間には信頼が認められるわ、けれどもそれは目には見えなくて一方が認めてももう一方が否定すれば、二人は喧嘩で…

あちこち、テンテン 6-4

「生活のためにのみ生きている、息をつなぐのは苦しいことだと知っていながらも、やっぱり生活は大事か?」私の声だ、少女の口からは宅間の声が聞こえる。どうしてだ?状況を見込めない。私は話してはいなし、聞こえたのは少女の口からだ、間違うものか。音…

あちこち、テンテン 6-3

立ち上がる少女の口元が赤に染まっていた。驚きを隠せない、一歩後退する。何か動物を肉に食らいついたような口元の汚れ方。恐怖がよぎる。私は食べられてしまうのではと、宅間は左右、逃げ道を探す。少女が一歩前に左足を踏み出す。それに呼応して宅間も後…

あちこち、テンテン 6-2

頭を振る。狭い、窓口を出た。じっと座っているからだと、体を動かす。回転機構の真円のアルミ、滑り止めの凹凸。危険を知らせる黄色いランプと、食物連鎖の頂点に立つ肉食動物のイメージカラー、黒と黄色の縞々が車の出入り口を囲う。黄色の回転灯は赤色と…

あちこち、テンテン 6-1

宅間隆史は同僚を休憩に入れて立体駐車場の勤務をこなしていた。日の傾きを待つ静かな時間、人が流れて時たま、車が一台、二台と入ってくるのみ。忙しさとは無縁の生活。かつてはスーツを着こなし会社に勤め、この町へ通っていた。しかし、今といえば、比較…

あちこち、テンテン 5-3

「質問の意図がわかりかねます」店主はあからさまに不機嫌に顔を曇らせる。先ほどの言葉が伝わっていないらしい。もしくはわざと苛立たせる為の作戦か?それだったら大成功、掌握術を心得ている。侮れない。侮る?立ち向かってどうするというのだ。「答えて…

あちこち、テンテン 5-2

「パトカーが止まれば、事件でしょうし、警察の訪問で確定的です。あくまでも予想です」「あなた以外の従業員は何人です?」熊田は種田に代わり質問を続ける。「三人ですが」一店一店、周辺に同様の質問を投げかけるのか、店主は疑問を感じる。「あの、先に…

あちこち、テンテン 5-1

ハンバーグの大々的な勝利はお預けに終わった。六対四の割合の場合は継続経過に移行し、翌週に同じメニューで割合をはかり、そこで七対三の割合に分かれるとハンバーグをメニューに定期的に登場させる。また、支持が七割に達しないときは、もう一品を変えて…

あちこち、テンテン 4-3

「大丈夫ですか?」心配している声も声色で真剣さの度合いが測れる。鼻で笑う私。店員はいぶかしげに見つめる。背の高い店員、彼目当てのお客もこの店では多数。当の本人はそれに気づかぬように振舞い、羨望を受けてきた自信は外側の鋼で覆い、内部はだらし…

あちこち、テンテン 4-2

そうやって取り込まれないようにいくつの私を抹殺してきたんだろうか、仕儀は煙を吸い込み、差し入れを無理やり二口で押し込んで店に戻る。差し入れを携えた常連客は髪を切りそろえるのとセットだけであったので一時間と少しで応対が終わった。これで心おき…

あちこち、テンテン 4-1

飛び込みのお客と予約客の対応に追われ、その日は朝から休憩する暇もなく常に立ちっぱなし、三十代後半あたりから立ち仕事のきつさが身にしみて体を蝕むさまをまざまざと見せつけられている仕儀真佐子は、正午をとっくに過ぎた時刻に、十分の休憩に入った。…