コンテナガレージ

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自作小説-マーケットキーパー

抑え方と取られ方1-1

週の真ん中、脅迫事件の翌々日は、雲ひとつなく晴れ渡る大仰な快晴。関東や本州の太平洋岸は、大雪に見舞われている。地下鉄の改札から望める大型ビジョンに早朝に傘を差して歩く人にインタビューを求め、欲しがる、天候に対する悲観的な感想を聞き出したい…

予期せぬ昼食は受け入れられるか?7-2

「疲れてる?」 「体力には自信があります、精神的な疲労ですね」国見はやり過ごす車を追うように、一歩前に出て、路地の右を指す。 「大豆の地位って、そんなに低くはないですけど、高いとも言い切れない。それが不満だったのかな」彼女は、マフラーに顔を…

予期せぬ昼食は受け入れられるか?7-1

二人が先に店を出る。国見と店主はそれから五分の時間を待って店を出た。 「良かったんでしょうか、二人にとてつもない勘違いをさせてます」地下街に下りる階段で国見が、踊り場で振り返る。階段を上る通行人をやり過ごして、彼女は続けて話す。「言っても良…

予期せぬ昼食は受け入れられるか?6-7

間髪いれずに回答。「してない」 「……倉庫で怪しい会話をしてたじゃないですか、あ、あれはどう説明するんです」小川は長身の館山に隠れて顔を脇から覗かせて、午後に見たやりとりを指摘する。 「僕の口からはなんとも、その件に関しては話せない。だけど、…

予期せぬ昼食は受け入れられるか?6-6

油にまみれたステンレスに光る、反射の板を洗剤で埋め尽くすと、大胆に水を流しかける。店主は、白米の重要性について、考察を重ねた。あの母親にとってはお米は生き抜くための必需品だった。何故、他の食品で代用を試みなかったのかは今でも疑問が残る彼女…

予期せぬ昼食は受け入れられるか?6-5

「報道は真実とは違うって体感しましたよ。言い訳に聞こえるから、あの両親も反論しなかったんですね。それに子どもがこっそり死んでしまうかもしれない食べ物を自分の意識で口に運んでいただなんて。……子供が誰よりも大人だったって、ことですよね」小川が…

予期せぬ昼食は受け入れられるか?6-4

「吐き出しなさい!すいません、お手洗いを!」母親は手を挙げる。 「大丈夫、いつも食べてるから、平気」 「息もできなくなって、死んでしまうの。全部出しなさい」 「もう、遅いよ」 「救急病院ね、胃洗浄だわ」 「慌てないで。僕は大丈夫。ずっと前からち…

予期せぬ昼食は受け入れられるか?6-3

「すいません」カウンター越し、父親が店主に問いかけてきた。 「はい」 彼は立ち上がる。「お米は本当にありませんか、貸し倉庫のような場所に保管しているのではないですか?」 「いいえ、店の裏手のことをおっしゃっているのなら、見当違いです。明日の朝…

予期せぬ昼食は受け入れられるか?6-2

「ご注文がお決まりになりましたら、お呼びください」間に挟んだ子供を見つめる母親、子供は高い声で物珍しいメニュー表にか細い歓声を上げている、迷惑という意識は備わっているらしい。国見は両親がむき出した敵意と攻撃性の低下を読み取る、引きつった口…

予期せぬ昼食は受け入れられるか?6-1

核心を避ける小川と館山のよそよそしい遠巻きからこちらを横目で窺う態度は、精神的な圧力を感じる。しかし、感じているのは自分なのだから、視線と態度から予測を切り離せば事は足りて、体の拘束具ははずれてしまう。視線の威力は自らが強めている場合が多…

予期せぬ昼食は受け入れられるか?5-4

「落ち着いてますね」 「そうかな。いつもだと思うけど」 「もう少し、慌ててくれても良かったんですよね、私としては……」蚊の鳴くような声で国見が言う。 「何か言ったかい?」 「いいえ。何でもありません。私がきっちり弁解します」 「お願いするよ。僕ち…

予期せぬ昼食は受け入れられるか?5-3

館山は業者が漏らす業界内の現状を踏まえた店主の見解を求める。しかし、答えはせずに仕込みを続けた。 数十分後に、国見が休憩から戻る。彼女は店主の腕を引き、奥の倉庫に引っ張った。 「どうしたの?」 「……背中の傷をみてくれませんか?」 「傷?」上着…

予期せぬ昼食は受け入れられるか?5-2

「ありがたい、今日は忙しくって、朝からそれこそ何も腹に入れてなかったので、助かります」 「店長、大豆と小麦のこと聞きませんか?」館山は明日のランチに備えた副菜を作りつつも、出勤時のアクシデントをまた思い出したらしい。切迫する表情は作り出す不…

予期せぬ昼食は受け入れられるか?5-1

午後の二時。室内の温度設定を一度下げる。ホールの人気のなさは、家具の老練な佇まいがカバー。既に傾きかける西日がビルの隙間を通って出窓と、ホールに放たれていた。 「外は物騒ですね」休憩から戻ってきた館山は、彼女の腕を磨く食材を山と買い込んだよ…

予期せぬ昼食は受け入れられるか?4-4

「誕生日のケーキは困りますね」 「どうして誕生日にケーキが食べられるようになったんだろうか。起源を考えたことはないの?」店主は小川に聞き返す。 「想像するに私の独断と偏見ですけど、特別な日だから、一番の贅沢を表現したかった、それが子供への祝…

予期せぬ昼食は受け入れられるか?4-3

「安佐、いいから言って」 「仕方ありませんね、皆さんが言うんなら」勿体つけて小川が言う。「要約すると蹴落としたかったんですよ。一人勝ちって、あんまり印象に残らないし、見てる側も出来レースに見えてしまって、入り込めない。だけど、競争相手がいれ…

予期せぬ昼食は受け入れられるか?4-2

「どちらも同程度出ています、どちらにしますか?」店主は気づいていない振りで応える。 「小麦のほうを一つ」開きかけた口が閉じたのを店主は見逃さずに捉えた。視線がこちらの右側に動いたのである。背後の出窓に反射して列の人間に誰かを見つけたような驚…

予期せぬ昼食は受け入れられるか?4-1

店主は警告を発した女性の風貌についての詳細を語っていない。そのため、店主だけが女性の不適な視線と笑みを察知している、という状況である。逆光が目に入り、視界が上手く望めないのが難点。店主の視線は、列を去ってランチを手に提げる制服の女性を追っ…

予期せぬ昼食は受け入れられるか?3-7

大豆をザルに上げて、軽く揉んで水気を切る。水分は取り切りたい、水っぽさは時間とともに出てしまうので。ここではまだ、大豆で何を作るかは決まっていない。過去にのっとり、レシピを考案するしかない。腕組み。うーん、どうしたものか。大豆の形をそうい…

予期せぬ昼食は受け入れられるか?3-6

各自の首がわずかに縦に動いた。 厨房の三人はランチの調理に取り掛かる。大豆は水でふやかしたものを使用。大に水を張って火にかける、加減は固めと、小川に指示を与え、タイマーの五分前に固さのチェックを頼んだ。ナンは先週作ったので別の料理を思案して…

予期せぬ昼食は受け入れられるか?3-5

「さあ、どうだろうか。来なければそれに越したことはない。集客をやっかむ近隣の飲食店のどれかだろうしね」 「何故、警告を発してまで大豆を嫌うのでしょうか……」店主の右隣に座る館山がつぶやく。 「小麦の摂取量、生産量が減ると彼らの利益も落ち込むの…

予期せぬ昼食は受け入れられるか?3-4

「おはようございます。今朝、端末に不振な電話がかかってきて、いたずらだとは思うのですが、聞いてもらえますか?」国見は前起きなく話しかける。よほどきいて欲しい事柄なのだろう、端末に咄嗟に録音した所は彼女らしい。 受け取った平たい端末を耳にあて…

予期せぬ昼食は受け入れられるか?3-3

「館山さん、顔色がよくないね」 「先輩にも忠告ですよ」小川がもう一枚の紙を見せた、こちらはコピー用紙のようだ。「背中に張られたのを私が見つけて、かなり悪質ないたずら」こちらは、筆ペンで書かれた動きのある文字。 "大豆の摂取は、進んで体を痛める…

予期せぬ昼食は受け入れられるか?3-2

「考えておきます、メニューはまだ決めかねている段階ですので」 「良かった。私、大豆を食べられなくて」小麦を使用した店ならば、いくらでも営業している。この人の発言はやはりわかりかねる。 「そうですか。それでは」 「大豆を使ってはいけない」声が振…

予期せぬ昼食は受け入れられるか?3-1

週が明けた月曜日。日曜の晴れ間が続き、今日も青い上空を見せつける。地下の階段を上りきって、交差点を眺め、ファッションビルのマネキンに挨拶、セールの文字が目に余る。在庫処分、保管していても仕方がないので、買ってくださいという本心が通行人には…

予期せぬ昼食は受け入れられるか?2-5

シャワーを浴びる。コーヒーは忘れられたまま、ライトに照らされた注目を浴びている。体を洗う時、店長は極力何も考えないようにする。しかし、言葉は頭を走り回るし、止められないのがいつもの流れであった。 ランチのメニューが過ぎる。 お客の求めは小麦…

予期せぬ昼食は受け入れられるか?2-4

コーヒーは最初の一口から一切、手がつけられなく、湯気が消える。そんなことはお構いなし。一旦思考に這入りこんだら最後、周囲の状況はいつも二の次に変換されるのは、店長のスタイル。道を間違えることもしばしばで、今日家に考えながら辿り着けたのは、…

予期せぬ昼食は受け入れられるか?2-3

店長はコーヒーを一口含むと上着を脱いだ。やっと温度が上昇室内、態勢を変えてソファに横になる。 二誌目を畳み、三誌目を手に取る。こちらには、生育環境の意見が数多く散見された。要約すると、このようなことだろう。 競合してしまう大豆と小麦の生育環…

予期せぬ昼食は受け入れられるか?2-2

大豆へのバッシングは二誌目のほうが、深く取り扱っていた。店長は、読み込みの途中で席を立った。 降り口に向かい、改札を目指して、大豆に関する批判の箇所を思い浮かべた。その前に、まずは大豆がどのような食品に利用されているかを挙げてみることにする…

予期せぬ昼食は受け入れられるか?2-1

その週に、小麦輸入に自国での取り扱い、生産、加工、食品添加におけるガイドラインの作成に政府が乗り出した、と報道機関が伝えていたらしい。小川や館山から聞いた情報である。カウンターのお客の会話にも時折、週を重ねるごとに飛び交う小麦の言葉は多く…