コンテナガレージ

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自作小説-マーケットキーパー

抑え方と取られ方 4-4

おいしさが必ずしも正しさに直結するのならば、高級店で扱う最高級品・ブランド名が冠された食品ばかりを単に焼いたり蒸したり、その他基本的な調理工程だけで、味は堪能できる。創作料理や多国籍料理などは店を構える段階で負けを認めていると解釈。味の創…

抑え方と取られ方 4-3

「ここ最近の天気は春を思い出させますなあ」入り口にくぐもった男の声。マスクをはめた豊かな髪の男が両腕に茶色く粗雑な紙袋を抱える。とうもろこしを勧めた業者である。まったく偶然というものがこの世にはあるのだ、と店主は、年季の入った黒ずんだ天井…

抑え方と取られ方 4-2

「先客は私。順番すら守れない、やっぱりお嬢様っていうのは、決まって傲慢で、自己中心的でなにかにつけて自分を優先使用する。あーあ、お金持ちの家に生まれても、ああ、はなりたくないね。だって、お金持ちでも立派な人格の仕事相手と交流があるもの私は…

抑え方と取られ方 4-1

「受け取りを拒否します」 「ええっと、そんな、いいえ、その、拒否ですか?」 「まっとうな意見ね」戸口の小麦論者の女性が店主の発言を擁護、後押し、あるいは同意する。しかし、彼女の意志と僕とは、判断が異なっている。 ヤマイヌ急便の配達係は、ベルト…

抑え方と取られ方 3-6

「何を言っても、引き下がらないつもりね。わかった、わかった。ふうん、最終手段は使いたくなかったけど。明日から、店は小麦しか使えないようになってもいいよね?」不敵な笑み、顎を引いて、彼女は白眼を強調する。ドアのガラスから漏れる光が彼女の影を…

抑え方と取られ方 3-5

「どういうこと?なんとか言いなさいよ!」怒声が彼女の口から発せられる。外見とは裏腹。では、怒声に似合った外見とは、店主は考えるも最適な顔は浮かばない。 「あなたはその紙を見て、何か文字を読んであるいはイラストを見て、問いかける。私が拝見して…

抑え方と取られ方 3-4

「小麦のみのメニュー変更が果たして有効な手段でしょうか。私にはそうは思えない」店主は、首を振って彼女の意見をはねつけた。 「今後は小麦が穀物の王様になる。米は、特定の層にだけそのために作られるわ。農家の囲い込みはもうじき終わるんじゃない。永…

抑え方と取られ方 3-3

「そうやって料理も教えるんだ?」馬鹿にしたような言い方。おちょくっている、あるいは、神経をさかなでる効果を狙ったのだろう。しかし、店主は動じないどころか、仕掛けから相手の傾向を探る。 「五分に設定しました、これ以後は回答を拒否します」 「も…

抑え方と取られ方 3-2

マンションを出る直前にかすれた声の小川から連絡が入っていた。インフルエンザらしく熱が出て動けない、休ませてくれ、そういった内容。即座に一週間の休暇を彼女の言い渡す。半ば諦めるように、彼女は言いかけた言葉を呑む、息遣いがスピーカーを伝わって…

抑え方と取られ方 3-1

データ収集から一週間の月日が過ぎた。精査するデータには誤差を与えた。平均気温の割り出しとは異なる。あちらは誤差を含まず明確な観測指数のみを数えている。地下道のビジョンに映るニュースが過ぎり、それに対して誤解を招かないよう先手を打ったのだ。 …

抑え方と取られ方 2-9

「考えすぎ」 店主はロッカーに場所を移す。ホールから呼び声。内部には響かない、単なる振動に声の解釈を切り替えた。 動揺している?私が? 寂しいという言葉に反応が見られた。隠していたのだろうか、表に出ないように。 考えても無駄。試すしかない。ま…

抑え方と取られ方 2-8

「それでは、私が帰ります」 「待ちなさいって」段差を降りた店主が呼び止められる。これまでよりも彼女の内部を引き出す声の響きだった。 「鍵はレジの下、半透明の箱に入っています。めずらしい形の大振りな鍵です」 「話を聞きなさいって、言っているのが…

抑え方と取られ方 2-7

「面白い方」女性は笑う。「申し送れました、私、有美野アリサと申します。あは有するのあ、美は美しいのび、野は、野原の野です。アリサはカタカナ。アリスを日本風にアレンジしたようです、母親の趣味です」名前の由来を聞いてもないに、有美野アリサはこ…

抑え方と取られ方 2-6

とうもろこしが注目を浴びる日は遠くない。 需要の高まりが生産性を向上させた。 店主は手にする注文用紙を指ではじいた。 要望が集まり、資金が舞い込む。 設備が整い、生産性が改善される。 多くの人に行き渡り、安定的な消費が実現。 一定量が食卓に並ぶ…

抑え方と取られ方 2-5

「見せ掛けかもしれません」 「個人的な恨みですかね」 「どれも事件は個人的です」 「引き続き捜査をお願いできますか?」 「他に事件が起きなければ、体は空いていますので、彼女を離れる際は一報を入れます」 「そうですか。では」 「では」 従業員たちは…

抑え方と取られ方 2-4

「はい」 「営業時間だったでしょうか?」 「いいえ、帰るところです」 「午前に店を飛び出した人物の身元が判明したので、一応お伝えしようと思い、連絡を入れました」 「それはご丁寧に」 「従業員が狙われた事件とは無関係と私は判断します」 「アリバイ…

抑え方と取られ方 2-3

「嫌なのに付き合うの?」 「それは、だって、友達ですから。今後の付き合いや私の趣味を押し付ける時にだって相手は丸々同意をしてくれているとは思ってません」 電話のベルが鳴る。厨房の子機を小川が取る。館山が倉庫の在庫を確かめてピックアップ、足り…

抑え方と取られ方 2-2

「小川さん、休憩」 「わはっつ」膝が折れて、がぐんと体が片側に沈み込む。「寝てませんよ、瞑想です。こう集中力を高めるのって、ほらお坊さんがやっているじゃないですか、肩をぱちんと、ほら、しゃもじみたいな、これとは違うな、材質は同じ板で叩くでし…

抑え方と取られ方 2-1

今回は時間の許す限り、つまり午後二時までを制限としたランチを提供した。 ハンバーガーがとうもろこしパンに常に優勢をみせて、先に売り切れとなった。ただし、とうもろこしパンもその場で一口食べたお客の感想を皮切りに注文数は次第に増えて、ハンバーガ…

抑え方と取られ方1-12

「メニューに取り入れてはもらえませんかね、とうもろこしの粉を」男は座りなおして、切り出した。店主は釜で焼く効率性とフライパンの正確な形を天秤にかける。 「……何か言いましたか?」 「とうもろこしの粉を使った料理をランチといわず、メニューにのせ…

抑え方と取られ方1-11

「通常の、これまでの取引とは異なる、大掛かりな契約ですか?」店主がそっけなくきいた。 「さすがに話が早い」コーヒーが運ばれる、小川が引き下がって、男は話を続けた。「米の需要が飛躍的な伸びを計上しているのは、ご存知のはずですが、小麦も価格の高…

抑え方と取られ方1-10

一人前を炒めて、とうもろこしのパンに挟み、味を確かめているときに、開店前に三度目の来客が姿を見せた。 「どうも、ご無沙汰しております」四角い顔に頬のふくらみが特徴的な男性がにこやかに店に足を踏み入れる。微笑をたたえれば、入店は許可されたもの…

抑え方と取られ方1-9

そして従業員が各自の仕事に取り掛かる。 ランチメニューの一つはハンバーガーに決めていたので、昨夜に直接、アーケード街のパン屋、ブーランルージュにハンバーガーのパンズを注文していた、これを小川に店まで受け取るようにお願いする。館山には、裏口に…

抑え方と取られ方1-8

「現実が見えていないともいえる」国見が反対の意見を述べる。 「見えてますぅ」小川が反論。「あえて見ないようにしてるだけ。本当は知ってますよ、並ばされているんだってね。でも、私はまだましな方ですけど、飲食に携わっていてもいなくても、周りが見え…

抑え方と取られ方1-7

「却下します」 「……」 「おっはよううございますです」小川安佐が陽気に引いたドアで仰け反る。「わあお、人だ。うん、ああ刑事さん、朝からまた、どうしたんで……」ドン、逸れた種田の視線が男に向き直る間に、入り口の小川に体当たり、男は逃走を図った。 …

抑え方と取られ方1-6

彼はこちらを見つめて笑う、同調の意味を知っているようだが、不敵な笑みの効果は知らないらしい。 「本日のランチは、決まっているのでしょうか?」 「あなたの相手をしていると一生作れない」 「返しがお上手」 「私が置かれる明確な現状です。お願いです…

抑え方と取られ方1-5

「何も無い所から得られた利益に興味はない。どうかお引き取りを、ドアはあなたの左手、ノブを捻って、引きあけると外に出られます」店主は右手を開いて方向を指す。「どうぞ、お帰りを」 「はあ。頑固ってのは、私がもっとも苦手な人種。お嬢様があなたの店…

抑え方と取られ方1-4

厨房に入って間もなく、店のドアが開いた。見知らぬ人物は堂々と店内に踏み、ホール内をじっくり観察。名前を覚えない店主であるが、人の顔は割合覚えている。相手との間柄で、その関係性を把握している。 「こちらの店で、ライスの注文を断っている。そう、…

抑え方と取られ方1-3

実験によって、教授が実際に公園でブランコに乗る模様がスクリーンに映し出された。講義の主張や説明は、異なる重さの物質を同じ高さから落とすと、重力の影響により重いほうが先に地面に到達する。だが、重力が地球の六分の一の月での実験では、重さが異な…

抑え方と取られ方1-2

ランチのメニューは以前に取り入れた組み合わせを再び提供する試作を行った。メニューの誤差に対するお客の反応を確かめる。お客のランチを並んでまで手に入れる期待感が気温や気候、季節によってどのようにずれが生じるのかを見極めたい、というのが今日の…