コンテナガレージ

サブスク・日常・小説の情報を発信

自作小説-ガイドブックを探しています

適応性4-2

「傷の直径が二センチ、穴は円に近い形状です。尖った筒のようなもの、たとえばボウガンの矢が刺さった穴というのが適当でしょう」 「何故その方は発見現場に遺棄されたのでしょうか?ゆかりのある場所や勤務先あるいは自宅から程近い近距離に現場が位置して…

適応性4-1

「ここまでが二週間前、十二月二十三日に起こった事件の概要です。何か意見があれば話してもらえませんか?」石造りの喫茶店、こぢんまりとしたカウンターのキッチン、足元にくすんだ緑色のストーブ、天井に悠々羽根が回転、駐車場を望む小窓からは几帳面に降…

適応性3-4

「警察への窓口は今日の依頼もそうですが、私が適任。最も動き回れる。さらに他の組織へ行き来が可能な人材、おいそれと警察官として、殺害してしまえたら、それはおのずと私と組織の関係性を認めることになります。私の身辺を調べないわけにいきません、引…

適応性3-3

通行人が歩き去って、彼女が言う。「あなたを血縁者に仕立てましたので、遺留品を回収してください。簡単でしょう、今回の依頼は」 「ずいぶんとまた強引な方法ですね。私に一生の重荷を背負わせるとは……、下手な芝居を打つのは気が進まない」 「面倒な事態…

適応性3-2

「どうも。意外と気が利くのね。ずぼらなのは、照れ隠しのつもりかしら」切れ長の目は、笑うと消えた。部長は左右に視線を送り、気を配る。公園内の人物の入れ替わりはない。大型犬が彼女に向かって吠えているぐらいだろう。 「七変化は欺くためですか、忙し…

適応性3-1

街灯にうっすら積もる雪が落ちかけはじめた午後の日和。 午前中のあわただしい積雪がゆったり途切れて、気温の上昇は頬の上気が知らせてくれたらしい。S市T区、通り沿いの大型スーパーの混雑する駐車場に車を停め、店舗には向かわずに隣の暗がり、屋上駐車場…

適応性2-3

「僕も詳しくは知りませんけど、でも街をつくるゲームなら昔ハマったことはありますよ。災害とかゴミの問題とか、電力とか、公害に就労環境とか、色々進めていくと問題が発生して、後半は街づくりよりも不具合と問題の対処に労力を割かれて、てんやわんや」 …

適応性2-2

「目新しさで足を運んだお客っていうのは、また別のスポットが出来上がれば、そっちに流れてしまうんじゃないのか。どんどん世代は変わっても、ぽっかり穴が開く、消費盛りの二十代や三十代に空白の年代は出現しないだろう?」 「極端すぎますね」鈴木は指を…

適応性2-1

熊田とO署の刑事たちは、遺体の忘れ物を届けた人物と共に公民館を訪れた。赤の軽自動車が一台、建物に頭を向けて道路から直接向きを変えず進入し駐車されていた。 「ありがとうございます。すいません、送っていただいて」鈴木が一度外に出て、真ん中に座る…

適応性1-3

山遂は警察の車両に乗る自分を客観視して、ひしひしとその体感に酔いしれる。 願いとは案外にあっさりと懐に飛び込むらしい。貴重な体験である車内の光景に浸りつつも、おぼろげに記憶した景色を車内の真ん中で運転手の刑事に指示を送り、動き始めた等間隔の…

適応性1-2

「どう見ても、正規の出版物とは言いがたい」捜査用の白い手袋をはめる助手席の女性が低い声でつぶやいた。 「中は確認されました?」運転席の男は、さらに骨を伝達させる低音で山遂に問いかけた。四方から狙われている、冤罪にかけられる人はこういった圧力…

適応性1-1

警察車両の後部座席に山遂セナは座り、ガイドブックを持参した昨日からここまでの流れを事細かに、バス利用の彼女の日常も含めて警察に披露した。空気の乾燥が著しく、話し終えた時には喉の渇きに襲われた。 「あなたは建設会社にお勤めと先ほどおっしゃいま…

拠点が発展6-5

鈴木が反応した。「例の組織のことを言ってる?」 「組織ってなんです?おもしろそうですね」好奇心に満ち溢れた柏木の詮索、生々しい若すぎる抽象的な物事への関心を柏木は持ち合わせているらしい。あまり、場を共有する状況では、組織を匂わせる不確かな発…

拠点が発展6-5

「急いではいない」 「事件ですか?」 「こんちには」 「どうも」熊田は特徴的な瞳の色と髪を伸ばした種田にそっくりの女性に会釈。「どちらさまで?」 「現場を見にきたんですの。あら、その方、亡くなってますの?」畏まった言い回しは、わざだとだろう。 …

拠点が発展6-4

「監視カメラは?」 「それがあいにく、予算の都合で交番には取り付けてなくって。繁華街の交番ではありませんから」酒に酔って警官に暴行を加える市民の証拠を収めるためのカメラは取り付けてはいない、ということだろう。 「詮索は後回しだ」熊田は状況を…

拠点が発展6-3

強風は気まぐれに吹き付けて、また向かい風が吹き荒れる。 赤いポールに四人は辿り着く、シート付近で止まり、戻ってくる警官の足跡がくっきり残されている。そのほかは、まっ更な雪に先ほど振り続けた霰の粒が一層、上乗せされてた。熊田は足を踏み出す前に…

拠点が発展6-2

「昨日山岸さんが遠回りして帰るから、精算が終わらないうちに出動がかかったんじゃないんですか」老年の刑事は山岸というらしい。 「柏木、お前だって人のことを批判できる立場かよ。一時間も遅刻って、常識の範囲外の行動だ」 「取り込み中のところ申し訳…

拠点が発展6-1

I市西部に近づくにつれて、巻き起こる風は強まるものの、ぱったり凪のように穏やかな時の流れも垣間見せるのだから、こういった変わりやすい天候が日常的に繰り返されるのだろう。 熊田は、臨港沿い、まだ雪が積もり始めの道路に横付けされたパトカーをフロ…

拠点が発展5-4

「はい」 「今どこだ?」電話をかけてきたのは上司の熊田である。 「S市の中心街、正面がS駅です」 「車か?」 「はい」 「用事は済んだか?」 「いいえ、これから次の目的地に向かうところです。事件ですか?」 「そうだ、手が空かないのなら来なくていい。…

拠点が発展5-3

「神を信じる?」 「信じれば神は現存も過去にもそれから明日にも姿を見せるだろうし、疑えば神のいない世界をこれまた信じることになる。どちらも神から物語、選択、評価が行われる。この時点で解答は質問そのものが言わせているだけで、解答者に神の概念を…

拠点が発展5-2

「レンタルカー」海外の発音でアイラが話すとまた視線が集まる。「えっとね、ここから二ブロック北にお店があるね」 「私はいつ解放されるの?」種田は番茶を啜ってきいた。 「私の気分次第」種田が睨む。「冗談よ、じょうだん。黒人選手のことを言ってるん…

拠点が発展5-1

アイラと港湾工事のつながりが明らかになるのか?話の続きを書きました。

拠点が発展4-2

しかしそれでも、疲労が溜まってしまうのは、相当休息が必要なのだろう。 山遂は首筋の張りを感じつつも、前かがみになり、資料を腿の上の鞄に広げた。明日からほぼ毎日顔をあわせるアイラという建築デザイナーのプロフィールは選考の段階で当然頭に入ってい…

拠点が発展4-1

山遂セナは午前中の建築デザイナーとの打ち合わせ予定を一日間違えて把握、急遽予定を変更した。空いた今日の午前は商業施設に出店を打診する企業への挨拶回りに費やすのであった。 目星をつけた企業の反応はというと、具体的なコンセプトと集客規模の未定、…

拠点が発展3-4

「お前が考えなしに質問ばかりしているからだ」 「どうやら暇じゃなくなるらしいな……」熊田は食堂の出入り口に焦点を合わせていた。入り口に背を向けた相田と鈴木が振り返る。きっちりと堅苦しい雰囲気が対面しただけでひしひしと伝わる、上層部の人間がわき…

拠点が発展3-3

「雪祭りを愉しむのはほとんど観光客だ。そういった意味では冬の記念に、会場に足を運ぶ物好きなお客ならある程度の集客が見込めるだろうな」熊田はやっと麺を半分平らげて言った。相田はグラスの水を飲み干し、各テーブルに備え付けの容器から水を注いだ。 …

拠点が発展3-2

「休みをもらえるんですかぁ!?」 「しゃべるか、食べるかにしろって」 「だって、ここに配属されて年末に休みらしい休みは取れたことがなかったでしょう、思い出してくださいよ」 「勘違いしてる」相田がゆっくり麺を啜り、間をおいて言う。「休暇を年末に…

拠点が発展3-1

漠然と署内にて出動要請を待ちわびているときは、時計の針が十二時に指すと、熊田たちは決まって席を離れ、一階の食堂に足を運ぶのだ。このときばかりは、部署に人を残さずに空ける。熊田の方針ではなく、本来彼らが所属する部署に緊急の要請はもたらされな…

拠点が発展2-8

「そうこなくちゃああ。よしよし」がばっとアイラは立ち上がり、大げさにガッツポーズ。この仕草は万国共通らしい。 玄関に移動する二人に、慌てて店員が駆け寄った。「しばらく、お部屋で待機していただかないと、部屋の鍵をお渡しできません」 「スペアキ…

拠点が発展2-7

これらの要因が理由ではないが、大学入学を機に実家からは疎遠になっていた。元来、人へ興味は希薄であった、というだけのこと。季節や節目ごとに実家へ帰省はしない、むしろそういった行動は育てられた感謝と年中行事として帰らなくてはという義務と取り組…