コンテナガレージ

サブスク・日常・小説の情報を発信

自作小説-ガイドブックを探しています

非連続性4-1

O署内、一階の鑑識係へ数時間の余裕を持って訪問する部長であったが、廊下に漏れ聞こえる室内の声に、手をかけた金属レバーの握りを開放し、その場を離れた。今回は部下たちへの隠し事は極力控えたい、種田あたりの殺気が最近特に尖りつつある。危険地帯は足…

非連続性3-8

小走りに鈴木と相田が駅の自動ドアに姿を見せて、一直線に車へ歩く。 「寒い、寒い」体を心から振るわせる鈴木は痩せ型で、対照的に相田の体は鈴木の二倍ほどの厚みをもつ。 「ホームに下りて聞き込んできましたよ、改札では警察も形無しです」相田が肩をす…

非連続性3-7

「絶対に地中に何かが埋まっていますよ!」声が大きい。興奮し腰もわずかに上がっている。「その昔、蝦夷地と呼ばれた時代から、鰊漁で栄えた海を敬う時代までは災害の記録は残っていません。ああ、あの私そういったオカルトに興味があって、その時代の反映…

非連続性3-6

「今日は休館日では?」 「黙っていてもらえますか、正直に話すので」 「話を伺って判断します」 「はあ、そうですよね。いや、文句を言ってません。図書館の司書が友達の親戚なんです、顔見知りだから無理を言って、入れてもらったんです。本の整理を知り合…

非連続性3-5

熊田がタバコが三本目を吸い始めたその時に、バスが暗闇から登場した。種田は時計を見る、ほぼ時間通りの到着だ。 手順は次のとおり。目視で車内を確認。乗客が乗っていたら種田がすかさず乗り込み、乗客に接触を試みる。熊田は車で後をその追いかける。 種…

非連続性3-4

「聞き込みは明日からということですね」決まって聞き込みの時間帯を日中に据える熊田の捜査に基づいた意見を言ったつもりである。 「聞き込みのエリアがまだ決まらない」鈴木が雨の降り出しを確かめる仕草。「熊田さんのゴーサインが出ないんだ」 「バス停…

非連続性3-2

「はい」種田はデスクに座り、コーヒーを置く。 「事件に進展はあった?」 「盗聴の危険がある」 「そう、警察の電話を盗聴するのって相当な悪党よね。いいから教えてよ」 「言えない」 「絶対?」 「捜査情報は機密事項であり、他言は無用と言ったはず」 「…

非連続性3-1

ようやくもたらされた鑑識結果は、到着の三時間後であった。もたらされたとはいっても、鈴木や相田が逐一、情報の上がりを一階の鑑識まで聞きにいっていた。毎回、情報は権限を持たない種田たちの部署を飛び越え、捜査依頼を申し出た上層部に上がり、そこか…

非連続性2-6

「何か不都合だったでしょうか?」 「詮索は構わない。ですが、その対処が面倒なので。知っていても知らなくても事件には何の影響もありません」 「そうですか……」山遂は家族思いなのだろう、育った環境から物事の基準を決めている。姉妹が顔を合わせていが…

非連続性2-5

「何?」アイラもきいた。 「ガイドブックの地図はアイラさんの構想によく似ている。バスの中で私はいつも建設予定地の図面や計画書などを広げて一日の仕事のまとめを車内で行っていました。亡くなった女性はいつも前の方の席に座りますし、乗客は僕と彼女だ…

非連続性2-4

指先を広げて画像を拡大する。 人の流れを熟知……、設計者は一体誰だ? アイラは唸る。 海上交通も整備されている、船上と桟橋が建物に直結。朝鮮半島や中国大陸、ロシアとも周航距離は近く、時間に余裕のある、飛行機の移動に飽きたお客には興味深いルート。…

非連続性2-3

「あぁあ、はい。私は口が硬いですから。それにアイラさんの不利益になるようなことは、私の仕事や会社にまで及びます」 「現物は手元にないから、端末で撮影した画像を見せる」端末をコートから無造作に取り出す種田は、指先の動きを止めて、振り返って、彼…

非連続性2-2

続いて車が一台、離れた。「一緒に来ていだだけますか?」アイラは前方の光景を見やって言う。 「もしかして、警察のところへ、ですか?」 「気が進みません?」アイラは首を傾ける。灰色の目を彼に向けた。 「……外ですよ」 「フィールドワークに必要なので…

非連続性2-1

ヘッドライトの照明を反射する三十センチほどの黒と黄色の支柱を起点に中央分離帯で器用に方向を変えた青いバンはアイラから遠ざかり、その代わりに彼女が乗る車が隊列へと加わった。彼女の車が停まったために後方の車両が数台もたつき、さらなる後続車は車…

非連続性1-4

「表紙は閉じてあったのか?」 「そうか、未完成ってことはないのか。すると、あれが完成形なのか」 「不満げだな」 「架空の都市が掲載されているからですよ」相田もタバコを咥えて言った。 「しかし、場所はI市なんだろう?」 「ここら一帯の土地勘はない…

非連続性1-3

残された刑事四人が全員、部長に説明を求め訴える視線で言葉を口にするのを待っていた。過去の出来事はあまり口にしたくはないが、避けられない事態だろう。部長は風の収まったのをいいことに、タバコに火をつけた。 「昔の同僚だよ、先輩といっても年齢がひ…

非連続性1-2

「はい。現場で女性の死体が発見されました。死亡推定時刻は昨夜の午前零時から二時までの間、死因は頭部、額の陥没した刺し傷が致命傷だと思われます。死亡時刻、死因等は鑑識の簡易な初見によるもので、正式な回答はおそらく数時間後にもたらされるでしょ…

非連続性1-1

車を走らせること一時間少々、部長は雪の強い照り返しに、日除けのカバーを下げてハンドルを握る。T区からI市に入り、荷物の運搬車両が多く散見される臨港沿いの道路をひた走って、パトカーを見つけた。 数台がパトカーに連なって路肩に停めてられている。部…

適応性8-2

「そう、あの事件は犯人の特定には至っていません」鈴木が言うのは、ショッピングモールでベンチに座った女性が死亡した状態で発見された事件だ。心臓麻痺による病死という結論で事件は幕を閉じていたが、腑に落ちない未処理の情報が多く残されていたのは事…

適応性8-1

「彼女を高く積んだ雪山から落として、額に刺さりませんかね?」後部座席の鈴木は顔を突き出し飛び込むジェスチャーを披露する。現場へ引き返す車内での一幕である。 「突起物の長さ、強度、落下する高さ及び、額を狙ったのなら的に当てる正確性が求められま…

適応性7-2

「着地点を見誤っているように私は思えてならないの、そういった意見は目先のほんの数歩先の出来事や案件ばかりが目に飛び込んでも、見えていないように振る舞うことが寛容じゃないかしら」 「お言葉を返すようですが、上司を説得できなければ、すべてが動き…

適応性7-1

赤い軽自動車の運転席に山遂が乗り、助手席にはくつろいで視界の悪いサイドウィンドーをぼんやり眺めるアイラ。 山遂の秘書が公民館まで乗ってきた車両を借りている。天候は回復と悪化を交互に見せ付ける。天候の不順さはイギリスで嫌というほど日常に溶け込…

適応性6-4

「橋田さんはいかがです?」 「私が行かないといっても、家族に連れて行かれるだろうな」 「わかりました。黒河さんにはもう一度、生前の写真が見つかり次第確認のために伺いますので」 「あまり頻繁に警察が出入りされても、困りますな」橋田が釘を刺す。 …

適応性6-3

「全然、まったくです」黒河は首を振って、あからさまにこちらの肩を持つ。「忘れ物は終点到着後に乗務員が確認する手はずになっているので、大変言いにくいのですが、私が保管し遺失物係へ届けなくてはならない。どうか、その辺はお客さんが強引に持ってい…

適応性6-2

「昨日、その路線を運転された方は、どちらに?」 熊田の質問に橋田は手を挙げて席を立った。 戻ってきた彼は手に端末を持っている。画面から顔を遠ざける、はにかむように目じりには皺がよる。しかし、画面と距離を試行錯誤の挙句、デスクの引き出しを開け…

適応性6-1

車両の収まる倉庫の開かれた入り口に大型バスの前面がずらりと顔をみせる。屋外に駐車される車両も数台が並ぶ、あぶれたように数はそれほど多くはない。 熊田たちは乗用車が止まる一角を、敷地内を徐行して探し当てた。ロードヒーティングではなく、車両の洗…

適応性5-4

「ごもっともです」 「あんまり畏まらないで、べつに説教しているわけじゃないんだから」 「なんでしょうか、海外の方と聞いていましたので、緊張してしまって……」 「忘れ物をされたんですね?」 「は?ああ、ええ、いや、わたしではありません。バスに置き…

適応性5-3

「地方はどこも似たようなものです」 「バスの運行を始めているとメールで読みましたが、運行の状況はいかがでしょうか」アイラはテンポ良く話題を飛び飛び。 遅れて山遂は語る。「敷地と駅の区間は信号の数が少なく、右左折の方角へは特定の車しか進みませ…

適応性5-2

「あなたの上にもまだ権限を持った人がいるようですね」立ち止まる。首を傾けたアイラが笑った。 「最終的な決定やプロジェクト、デザインの方向性を固める会合では、そうなりますね」 「私を招集してもあまり意味がないわね」 「どういう意味ですか?」 「…

適応性5-1

「TAKANO建設の山遂と申します。初めまして」 「ああ、あなたが山遂さん」アイラは靴先から頭までをゆっくりとこちらにはっきりと読み取れる目線を向けて言った。外見はほぼ日本人そのもの、灰がかった瞳の色が外国人全としただけで、身長は標準的な日本仕様…