コンテナガレージ

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自作小説-ブルーズブルー

ご観覧をありがとう。忘れ物をなさいませんよう、今一度座席をお確かめになって7-5

言われたように外に出た。入ってきたときには目に入らなかった情報、記憶を彼女は振り返り、照合した。脳内の容量を圧縮するための取り組みである、こうすることで不確かな映像が処理され、まとまる。思い出し易く、引き出しも楽に行えるのだ。 ロータリーは…

ご観覧をありがとう。忘れ物をなさいませんよう、今一度座席をお確かめになって7-4

「人が倒れてる。今からゲートの外に運ぶ。こっちに来て、手伝って」 「登れませんよー、私にはゲートが高すぎます」 「くそっ、まったく」種田は、事務所に走った 鍵穴が塞がれていた、煙でよく見えなかったらしい。即座にドアを蹴破ろうとするも、弾かれた…

ご観覧をありがとう。忘れ物をなさいませんよう、今一度座席をお確かめになって7-3

人を椅子ごと持ち上げた、煙の影響が少ない場所まで種田は引き戻る。パイプ椅子と椅子に座る人物が華奢な女性であった。これはのちに気がついたことである。この時点ではまったく意識に上げていない項目。 「大丈夫ですか!もしもし、聞こえますか!」顔に被…

ご観覧をありがとう。忘れ物をなさいませんよう、今一度座席をお確かめになって7-2

白んできた、視界が白煙に奪われて、一メートル先の見通しが利かない状態である。窓を覗くが、カーテンが閉待って中の様子は見えない。ドアも施錠されている、そこで、種田な冷静に事態を把握した。 建物から煙は排出されていない、入り口ドアの裏側に発信源…

ご観覧をありがとう。忘れ物をなさいませんよう、今一度座席をお確かめになって7-1

S駅に向うタクシーを捕まえて、乗車。 北海道飛行船協会の事務所を運転手に告げるが、伝わらない。 ドライバーはかなりの高齢だった。ナビに打ち込む住所を教えた。 前かがみの体勢を動き出しに安堵を勝ち取り、やっとシートに背をつける。レースのカバーは…

ご観覧をありがとう。忘れ物をなさいませんよう、今一度座席をお確かめになって6-5

「こっそり僕にだけ、教えてくれる、店長さんの譲歩なんて計らいは、はい、ありませんよね」鈴木は額を掴むようにこめかみを挟んだ。「かなり大胆な行動だったんですよう、現場の踏み込みだって……。背に腹は変えられないかあ、何とか希望を繋ぎましょう、上…

ご観覧をありがとう。忘れ物をなさいませんよう、今一度座席をお確かめになって6-4

「結局ですよ、ここで行われた、あくまで予測ですけど、殺害は事実であるとおっしゃるんですね?」 「当該店舗の関係者が殺害に関与、殺害を目撃したのである。だから、死体は屋上に運ばれた。そろそろ一週間が過ぎますかね、製品の出荷、販売に影響を及ぼす…

ご観覧をありがとう。忘れ物をなさいませんよう、今一度座席をお確かめになって6-3

「それは一般市民のリークを恐れた、発言ですね」 「店長さんは、口が堅そうですので、まあ、従業員の女性とかが気になる対象です」鈴木ははにかんだ。手袋が手渡される。 珍しく、人と話す。得意な状況、しかも見慣れない角度、見下ろす通りの景色が気分を…

ご観覧をありがとう。忘れ物をなさいませんよう、今一度座席をお確かめになって6-2

シンプルな店内、白の内装は建物の品位に合わせている、と伺える。 微妙にサイズの異なったPCが数台、持ち運びとデスクトップ型が左手の島に、右手は携帯端末に音楽プレイヤー、イヤフォンやヘッドフォンは壁にかかる。二階に続く階段の手すりや支柱はブロン…

ご観覧をありがとう。忘れ物をなさいませんよう、今一度座席をお確かめになって6-1

ブルー・ウィステリアの店舗に行き着く。鈴木は時折店主の横顔を覗き見たが、声を掛けづらくそうに、無言を貫いた。うす曇、粒の大きい粒子を弾いた光、それが雲の代名詞である白、黒い色はそれではすべての色が混ざった白を越える色の集合なのだろうか、店…

ご観覧をありがとう。忘れ物をなさいませんよう、今一度座席をお確かめになって5-2

「否定はしない」 「他殺ですね?」思い切った。部長の懐に入る。 「自殺に見せかけるのは困難だ」 「自殺と断定しますよ」 「令状が欲しいのか?」 「S市警察の不穏な動きに興味があります」 「……現場に急行してくれ、君の職務を全うして欲しい。これは上…

ご観覧をありがとう。忘れ物をなさいませんよう、今一度座席をお確かめになって5-1

機種変更を見送る通信機器の店舗を後に、真っ先に鈴木へ所在の確認を求めたが繋がらず、屋外で待機していた事実から騒動の中心に鈴木の関わりを予感した。種田は駅前通りを南へ、明るさが不穏な心境に寄り添ったみたいな空模様を感じつつ、進路を取る。 が、…

ご観覧をありがとう。忘れ物をなさいませんよう、今一度座席をお確かめになって4-5

「わかりました」店主は決めた。可能性の高さが六割を超えたのである。鈴木の案は検討の材料、警察の助力あるいは逼迫した求めに感化されたのでは、まったくない。「ただし、条件を二つ、つけさせてもらいます」 「はい、協力してくださるのであれば、それは…

ご観覧をありがとう。忘れ物をなさいませんよう、今一度座席をお確かめになって4-4

「僕にそれを聞かせて、一体何を求めるのです、刑事さん?手がかりをあなたは掴んでいる、と見受けられますが」 「中心部の地上交通を停止させる」毅然、彼はすっと天井に首を伸ばした。「移動は地下に限定、幸い一体のほとんどのビルは地下に繋がる、交差点…

ご観覧をありがとう。忘れ物をなさいませんよう、今一度座席をお確かめになって4-3

「あっと、いや、ランチは食べてません」鈴木は言葉を濁す。予測するに視線は僕の背中を捉えているはずだ。「店長さん、少しお時間によろしいですか?」 「なんです、また事件って、もしかして外でわんさか仰々しく不穏な雰囲気を匂わせてる正体ですか?」 …

ご観覧をありがとう。忘れ物をなさいませんよう、今一度座席をお確かめになって4-2

店主は、館山とホールの国見蘭の二人を同時に休憩に入れる。小川は三十分後に休憩に入るよう言い渡す、時間は各自の管理を任せてある、彼女たちが案じる懸念を僕は微塵も感じられない、という意味にも、まあ取れるだろうか。しかし、だからといって……、弁解…

ご観覧をありがとう。忘れ物をなさいませんよう、今一度座席をお確かめになって4-1

交差点中央で倒れた歩行者の介抱に当って、十数分後にようやく走り寄る警察官が一名ずつが到着した、今朝店を訪れたO署の種田と鈴木という男性の刑事である。端末の電波が通じない、複数人がほぼ同時期刻に倒れた、突発な容態の変化であり、気を失う予兆は感…

ご観覧をありがとう。忘れ物をなさいませんよう、今一度座席をお確かめになって3-5

種田は手元に重なったパンフレットを指した。 店名が入ったポールペンを透明なペン立てから抜き取った。 「ここに端末代の月賦制度と書かれてますが、具体的な説明を。月々に料金がこれ以上増えてしまうのは、困ります」口調を多少大げさに逼迫さを強調、た…

ご観覧をありがとう。忘れ物をなさいませんよう、今一度座席をお確かめになって3-4

「どのようなことでしょうか?」 種田は顎を引いた。「支店長の所在がここ一週間知れない、というのは事実でしょうか。しかも、失踪が発覚した前日にブルー・ウィステリアの近辺でこちらの店員と支店長が一緒にいた、そのような証言を掴みました。こちらでは…

ご観覧をありがとう。忘れ物をなさいませんよう、今一度座席をお確かめになって3-3

「まったく。使い勝手がよくなれば、利用に踏み切るかもしれない、試しに使ってみては、そういったお誘いはメールか、最近では減ったダイレクトメールで十分、おなか一杯です。まるで、話を理解していないようですね、機種変更をお願いしているのに、何故要…

ご観覧をありがとう。忘れ物をなさいませんよう、今一度座席をお確かめになって3-2

「なにか私の端末に不都合でもありましたか?」無知を装って、種田は尋ねた。 「いいえ、そんなことはありません。……大変申し上げにくいのですが、お客様の機種はかなり古い型で、現状に見合う機種を探しておりました」 「変えろ、といったのはそちらですか…

ご観覧をありがとう。忘れ物をなさいませんよう、今一度座席をお確かめになって3-1

機種変更役は種田が務める、先月に変えたばかりの鈴木は月賦の支払いを理由に捜査の種田に任せた、喫煙の機会も含まれるはずだ。種田は、かれこれ十分を通信端末会社の窓口、駅前通店で待機を言い渡された。四つ用意された椅子は埋まり、お客は苛立ちを露わ…

ご観覧をありがとう。忘れ物をなさいませんよう、今一度座席をお確かめになって2-5

「お客さんがなにか渋滞のようなことは言ってましたね、事故か、人が倒れているとかで、救急車も警察が来ないとも。なにかあったのですか?」 「さあ、私が訊いているのですから、事情は知りません」 「あっ、それはそうですね、はい。……わざわざ運んでいた…

ご観覧をありがとう。忘れ物をなさいませんよう、今一度座席をお確かめになって2-4

「携帯は持ってますか、警察を呼んでください」よく通る声、しゃがんでいるにしてはだ。また、綺麗に人ごみが直線所に私と声の主とを繋ぐ。周囲、取り巻き、野次馬たちは無能であるかのように、鈍感にこちらを覗き見た。しかしだ、美弥都は考えを訂正した。…

ご観覧をありがとう。忘れ物をなさいませんよう、今一度座席をお確かめになって2-3

そして西へ信号を渡った。時間が止まったみたいに、車は止まったままだ。運転席の顔と何度も目が合う、車を降りて、流れの回復を待つ人も数人。しかし、美弥都は渋滞発信源を、ラウンドしたビルの玄関口、交差点の角に立ち、眺めた。彼女が正対する西に通り…

ご観覧をありがとう。忘れ物をなさいませんよう、今一度座席をお確かめになって2-2

あまり外へは出歩かない。いや、正確には大勢の人がひしめく場所を避けて、外出をする彼女だ。車移動は、私が働く喫茶店では主流である。ところが、美弥都は車の免許は持っていない、移動はもっぱら徒歩か電車である。不便ではないのか、店主には何度か聞か…

ご観覧をありがとう。忘れ物をなさいませんよう、今一度座席をお確かめになって2-1

「届けたら、直接家に帰って。店は僕だけで何とか対処する、手が終えなくなりそうだったら……いや、やっぱり今日の仕事は配達まで」 「戻ります。配達で時給を支払っていただくのです、それに今日は月見客の来店が見込まれます」道路を挟み、真迎えが日本海の…

ご観覧をありがとう。忘れ物をなさいませんよう、今一度座席をお確かめになって1-7

一時間、二時間とお客の入退出を視覚が捉える。 その度に不確かだった移転のイメージを膨らませる方向へやっと気分が高まりつつある、店主は送られた移転先の仕様書に目を通した余韻だ、と感じた。 ランチ終了後、片づけにひと通り目処がついた頃、僕は店を…

ご観覧をありがとう。忘れ物をなさいませんよう、今一度座席をお確かめになって1-6

「祈るかぁ、ぬううんん……」 「推理にかまけてないで、お前の将来を祈れ」 「先輩はどう、思います?」小川は厨房に戻る、一味足りない料理について、アドバイスを尋ねるみたいだった。 「店長は事件の核心にとっくに気がついている」 「やっぱり、考えるこ…

ご観覧をありがとう。忘れ物をなさいませんよう、今一度座席をお確かめになって1-6

「祈るかぁ、ぬううんん……」 「推理にかまけてないで、お前の将来を祈れ」 「先輩はどう、思います?」小川は厨房に戻る、一味足りない料理のアドバイスを尋ねるみたいだった。 「店長が事件の核心にとっくに気がついている」 「やっぱり、考えることは一緒…