コンテナガレージ

サブスク・日常・小説の情報を発信

自作小説-ブルーズブルー

本日はご来場、誠にありがとうございました2-5

「伝えたときは事実でありました」 「なんら落ち度はなかった、そうおっしゃりたい?」 「いいえ、初めて飛行船協会を訪れた際に飛田の正体を見破れるでしょうか?」 「尋ねたのは私です」 不穏な空気を察して鈴木がフォロー。「正直、事件の翌日に飛行船協…

本日はご来場、誠にありがとうございました2-4

「私が吸います」店主が言った。種田を見つめる、この程度の譲歩は受け入れて欲しい、そう目に意思を込めた。 ブラインドが下げられる。ウエイトレスが気を利かせたらしいが、僕はすぐに体をねじって、外が見える程度にブラインドの羽を調節してもらう。 体…

本日はご来場、誠にありがとうございました2-3

「店長さんが、その、なんといいますか」挨拶以後、種田との会話を見守る鈴木が言った。「集団卒倒の原因と、S市警察が疑いをかけてまして……」 「もう、屋上の死体の身元、犯人は捕まったのでしょうか?」店主は話題を変える、鈴木たちの質問に答える価値を…

本日はご来場、誠にありがとうございました2-2

幸い、開店間もない時間が功を奏したのかどうかは、正しい状況説明とはいえないけれど、ウエイトレスの特段に興味を湛えた視線、彼女の一人分の関心が留まったのだから、上出来だろう。正午過ぎのかきいれどきだったならば、目も当てられない、それこそこの…

本日はご来場、誠にありがとうございました2-1

見計らったと勘ぐるほどに席に着くと端末が震えた。慣れていないと飛び起きそう、心の準備が必要なぐらいだった、……通話後に設定を変えなくては。 「はい」電話の応答とウエイトレスの注文が重なる、メニューを指差して、一人にさせてもらった。僕は腕輪に呼…

本日はご来場、誠にありがとうございました1-5

僕の店を通り過ぎる。深夜から作業が行われ、日中は音の出る作業を控えて取り掛かるらしい、近隣店舗の兼ね合いがこうした密集区域では至上命題とも言えるし、これを怠ればギスギスした関係性が生まれ、大事に発展しかねない、とまあ、後半は最悪の事態、考…

本日はご来場、誠にありがとうございました1-4

「ええ、今日からです。うるさいでしょうけれど、大目に見てください」 「いいえ、僕は後からやってきた新入りですので、意見なんて言えた立場ではありませんから、はい」樽前は気後れしたようで、数秒虚空を見つめるように、僕を視線を合わせた。背後で音声…

本日はご来場、誠にありがとうございました1-3

店の斜向かい、テイクアウトの行列に店主は並んだ。前を通りかかったときは、ちょうど店のオーナー、樽前は背を向けていたので、こちらの存在には気がついていなかった。列は十人、いいや九人が並ぶ。朝方の六時過ぎ。こんな時間から働く人はいるものだ、そ…

本日はご来場、誠にありがとうございました1-2

しかし、地上に上がったはいいものの、店に入れるわけではないのだ。 昨日の日曜から耐震工事がとうとう、というか移転が決まるや否や、移転先の内装が決まったのが先々週の始め、路上で倒れた通行人の介抱に当った二日後で、その翌日には今日の日程が組まれ…

本日はご来場、誠にありがとうございました1-1

S市の中央区仲通りで起きた集団卒倒は、通信端末ブルー・ウィステリアの新製品が要因と特定された。体調不良を訴える患者は全国で八百万人を超え、発症予備軍は更に三百万人との推定が経済省の調べで発覚した。現行は製品の使用中止を訴え、先週までに耳鳴り…

ご観覧をありがとう。忘れ物をなさいませんよう、今一度座席をお確かめになって9-7

「はい」 「無事だったようね」数時間ぶりの再会?会ってないのだから、再会話とでも言おう。 「ええ、手荒なまねを受けました。あなたが出してくれたのですね」 「そういうことにしておいて。あまり電話では喋れないの」盗聴を警戒した発言、彼女の敵とは何…

ご観覧をありがとう。忘れ物をなさいませんよう、今一度座席をお確かめになって9-6

何のことだろう、従業員といえば、舞先しかいない。しかし、彼女は雇われた身分、要するに電話口で別れを告げた女性が派遣したこちらの内情を知る人物。いわれのない罪が降りかかろうとしている、けれど妙に達観した観測は続くらしい。だって、彼女の忠告と…

ご観覧をありがとう。忘れ物をなさいませんよう、今一度座席をお確かめになって9-5

「じゃあ、ホットドックを用意してください。安っぽくて、妙に固く、しかし食べ応えと飽きのこない味のやつを」 「研究者って味覚の鋭敏さを嫌う人が多いのね、どうしてかしら、おいしさは思考過程で除外されるんだろうか……」彼女は電話口で考え込む、悠長に…

ご観覧をありがとう。忘れ物をなさいませんよう、今一度座席をお確かめになって9-4

「洗いざらい僕の身辺は洗ったんじゃないのですか?」 「そのつもりだけど」ポーンとエレベーターの着地音が受話器の彼女の背後に聞こえた、ビジョンが鮮明に浮かび上がる。やはりホテルにいるらしい。 「逃げるべきですかね」 ドアがノック。二回、叩かれた…

ご観覧をありがとう。忘れ物をなさいませんよう、今一度座席をお確かめになって9-3

「はい」 「あら、ごめんなさい。いい気分で眠っていた?」女性の声だ、低音で声に香水が含まれてるみたいに、艶やかだった。 「眠ってはいない。まだ、午前中ですよ」 「そうね。それにしても、チェックインの時間早々に部屋に篭ったっきり出てこないつもり…

ご観覧をありがとう。忘れ物をなさいませんよう、今一度座席をお確かめになって9-2

選択肢はあまるほどに、手に持ちきれないほど、こぼれんばかりに、否、残されたものたちは私の無意識の選択によって予備予選なるものを通過してるんだ。仕方ない、無意識の仕業、これまでの私を形作る、いわば戦友だ。無下に扱っては罰が当る。そうだろうか…

ご観覧をありがとう。忘れ物をなさいませんよう、今一度座席をお確かめになって9-1

もう駄目かもしれない、私の開発人生は幕を閉じようとしてる、今後の生活?ここが最到達点だ、これより下に下りたい、と誰が心底願えるのか、興味深い研究対象ではある。だが、私はせまり来る魔の手に抗う術を見出さなければ。 ホテルの一室、最上階のスイー…

ご観覧をありがとう。忘れ物をなさいませんよう、今一度座席をお確かめになって8-8

まだ店は営業を続ける、装着は閉店まで控える、通話は証明されたし、これ以上の機能が必要に思えない、必要かもしれないし、便利で生活を豊かに、一日の時間に余裕が姿を見せるのかも、ただ、現在の生活には不必要だろう。使ってもいないのに断定するべきで…

ご観覧をありがとう。忘れ物をなさいませんよう、今一度座席をお確かめになって8-7

「あっと、かかってきましたよう」手元の端末が青く、いいや紫に点滅、鳴動を繰り返す。初期設定ではこうした音声がデフォルトに設定されるのか、いいかげんに無音を通常の仕様に変更できないものだろうか、店主は色合いを濃い紫に断定した。離れれみると青…

ご観覧をありがとう。忘れ物をなさいませんよう、今一度座席をお確かめになって8-6

「そんなことありませんって、ご冗談を、なにをいって、ああ、リルカさーん、ちょっと端末に電話掛けてくださいな」 「大丈夫なの?私、機械と苦手だから、正直わかんないのよね。爆発、しないでしょうね」館山は顔をしかめた。 「いいですか?二人とも弱腰…

ご観覧をありがとう。忘れ物をなさいませんよう、今一度座席をお確かめになって8-5

「安佐、ちょっと調べて」 小川安佐が端末を取り出して、声を上げるまで、店主は背後の冷蔵庫を開ける、食材を確かめ、ランチに使えそうな組み合わせを飛び跳ねるような視線、身軽なステップで次から次へ野菜、肉、魚、茸、フルーツ、乾物をめぐった。缶詰も…

ご観覧をありがとう。忘れ物をなさいませんよう、今一度座席をお確かめになって8-4

「いいでしょう、ほら、なかなかの商品だとは思いませんか、気に入ったって顔に書いてありますもん」まるで自分が生み出したみたいに小川は言う。「改装に着手したら店の電話が使えなくなります、店長はいつも店にいてこそ、居場所と連絡が取れた。よって、…

ご観覧をありがとう。忘れ物をなさいませんよう、今一度座席をお確かめになって8-3

「あ、うん」 「何をもじもじっしてんですか、いつものこう、勇ましさはどこへしまったのやら」小川は呆れる。そして颯爽とコーヒー容器を片手にロッカーへ小走りに消えた。誕生日ではない、とっくに過ぎたし、彼女たち従業員には公表してもいない。記念にな…

ご観覧をありがとう。忘れ物をなさいませんよう、今一度座席をお確かめになって8-2

ロッカーの上に見慣れない箱が置かれていた。プレゼントの外装、緑色と光沢のある水玉が二十センチ四方の箱を包む。リボンは赤。店主は眺めるのみに行動を留める、僕のロッカーの真上に置かれた、すなわち自分へのプレゼントと捉えるのは時期尚早、甚だ短絡…

ご観覧をありがとう。忘れ物をなさいませんよう、今一度座席をお確かめになって8-1

翌日。交差点に倒れ込む騒動がS市中心部で発生した約十六時間後。店主はブルゾンに手を忍ばせて出勤する、考え事に耽り、歩いていたので、出窓を通じた厨房内の様子は視界に入らず、つま先の茶色い染みはいつついた汚れであるかに意識を集約させていた。 店…

ご観覧をありがとう。忘れ物をなさいませんよう、今一度座席をお確かめになって7-10

「男女の関係に年齢など無関係。女性が上の年齢であるならば、世間で散見されるのは一部でしょう。だから、どうこうということではありません、データが少ない、または表層に見られる場面が少ないかもしれないだけ、ということもたぶんにありえます」 「……フ…

ご観覧をありがとう。忘れ物をなさいませんよう、今一度座席をお確かめになって7-9

こちらの問いかけのまもなく、電話は料理番組の映像のように文字情報のみが流れて、通話が強制的に切られた。 なんだったのだろうか、コーヒーの説明をわざわざ彼女が私に教えるとは、事件の解決が絡んでいるのか、それとも迷いを生じさせるつもりだろうか。…

ご観覧をありがとう。忘れ物をなさいませんよう、今一度座席をお確かめになって7-8

「洋食屋の店主さん、その方の助言の一つを完遂したまでで、訪問先の予定をまだあなた方は取り残しています。ただし、前回の助言によって鮮明な事実が公表されましたが、どうやらお気づきではないらしい。それを私の口からは言うのは遠慮させていただきます…

ご観覧をありがとう。忘れ物をなさいませんよう、今一度座席をお確かめになって7-7

いつもながらに目ざとく私の神経を逆なでする奴つだ。いいか、抑える、抑えろ。吐き出してはならない。冷静になれよ。種田は言い聞かせる。部外者のあいつに話を聞く、この行動すらも私は考えられないほど、そう蕁麻疹が出てもおかしくはない忌み嫌う最悪の…

ご観覧をありがとう。忘れ物をなさいませんよう、今一度座席をお確かめになって7-6

「O署の種田です」 一拍の間。電話の主は数秒で理解に及ぶ。 「店の電話を使ったの?それとも転送電話かしら?」 「なぜ後者だと?」種田は聞き返し、ベンチに座り直す。 「なぜ?可能性の問題です。各自が端末を所持する時代にたとえ店の電話であろうと、簡…