コンテナガレージ

サブスク・日常・小説の情報を発信

自作小説-解決は空力で

摩擦係数と荷重6-2

加藤税理士事務所と看板の架けられているようだ、ライトアップが消えていたから近くまで寄らないと見えないのだ。階段を上り二階へ案内される。鍵を開けて早手美咲はドアを開けた。室内は30畳ほどの面積でパテーションによる区切り、机や背の低い棚が配置さ…

摩擦係数と荷重6-1

警官と入れ違いに鈴木が戻ってきた。缶コーヒーを二人に渡す。 「スーパーって安いんですね。3本買っても200円でお釣りが来ましたよ。あれっ、どうしたんです?」 「なんでもない。遠慮なくもらっておくよ」 「私も」 「なんか怪しいなあ、もしかして二人は…

摩擦係数と荷重5-7

じっと建物の外観を凝視していると、窓が叩かれる。種田は窓を5センチほど開けた。 「ここで何をしてるのです?」声をかけてきたのは制服警官であった。交番は目と鼻の先にある、見回りの途中かもしくは近くを通りかかった近隣住民が怪しさ満載のこの車を交…

摩擦係数と荷重5-6

マンションと病院が角に建つ交差点を右折。下り坂を下って道なりに進む。正面左手に、H駅に隣接する大型スーパーが見えてきた。 「事務所はH駅の周辺のどのあたりだ?」バックミラーで熊田は鈴木に尋ねる。 「駅のロータリーに入ってください」道路を横切る…

摩擦係数と荷重5-5

二杯目のコーヒーを注文する。店内には賑やかに、夕食を摂る人々が集まりだす。一人の客がその大半であった。一人暮らしにおいての食費は自炊よりも外食の方が安いと言われる。果たしてそうだろうか。一から作る手間や出来上がるまでの時間が惜しいだけでは…

摩擦係数と荷重5-4

「ここは喫煙席ですか?」カップを口元まで運び優雅にゆっくりと止まることのない動作で種田はコーヒーを飲む。鈴木が種田を見計らって言った。 「ここに灰皿がある」 「そういえば、入店時にタバコを吸うかと聞かれませんでしたね」 「全席喫煙席かな」鈴木…

摩擦係数と荷重5-3

行きに見かけた国道沿いのレストランに車は止められた。熊田からどこで何が食べたいとの要望を聞く機会は設けられないで独断で昼食場所はファミレスと決まる。刑事という職業に就いているからなのか、鈴木と種田は嫌な顔をひとつも見せずにいた。日々時間に…

摩擦係数と荷重5-2

「明日の仕事のために資料を作成しなくてはならないので」母親はためらうことなく瞬時の回答。後ろめたさが察知できない。 「大変ですね。では、7時に事務所でお待ちしています。はい、失礼します」 「4時か。まだ4時間もあるぞ」熊田は鈴木の開け放たれた…

摩擦係数と荷重5-1

「もしもし、相田さん?」 「なんだよ?こっちは忙しいんだ切るぞ」 「ああ待ってくださいよ、ちょっと調べてほしいことがあるんです。すぐに済みますからお願いします」 「ったく。で、なんだよ調べてほしいことって?」 「早手亜矢子の捜索願を調べて欲し…

摩擦係数と荷重4-5

「しかし、母親が関与している可能性があるということですか。そんなぁ風には見えませんでしたけどね」 「先入観を持たないほうがいいですよ」種田は窓を閉めながら答える。信号が青に変わる。 「でも、娘が亡くなったのには全くの無関係だからこそ、現場近…

摩擦係数と荷重4-4

受付のもう一人の職員、店長と名のついた札を胸つけた人物がテーブルに置いたノートPC画面に指をさして言った。 「この方ですね」車の貸出時間は午後4時、借り主は早手美咲と明記されていた。 借り主の住所に見覚えのある鈴木が声を出した。「あれっ?これ…

摩擦係数と荷重4-3

「廊下で今さっき戻ってきた奴から聞いたばかりだ」熊田たち以外にもどうやら動いている捜査員は存在しているようであるが、種田は会ってもいないし、見てもいない。「犯人がレンタカーを借りていたと仮定を立てると、遠くからの来訪となる。現場付近にレン…

摩擦係数と荷重4-2

被害者は女性、人間である。体には無数の傷と死因の鈍器による殴打。死亡推定時刻は午後9時から深夜0時にかけて。死体の発見は通報者と同一人物。思い出した、通報者の証言をもとに捜査を始めたのだった。そうだ。もし発見者の彼女が現場を通らないとすると…

摩擦係数と荷重4-1

現場に残されたブレーキ痕からタイヤ及び車種の特定には至らず捜査は振り出しに戻り淡い期待も消えた。それ以降の先週はめぼしい収穫はない。そろそろ疲れの溜まり始めた熊田たちであったが時間通りに出勤してきた。今日は、直接現場には向かわずに署からの…

摩擦係数と荷重3-4

「いいや、いい。ただの感だ。根拠なんてない。すまん。忘れてくれ」神は逃げるよう言うと素早く立ち上がり歩いていった。 灰皿を脇に寄せて種田は姿勢よく座り、窓の外、ほとんどが内部が映る景色で落ち着けた。 昔、姿勢が悪いと怒られた。 箸の持ち方が汚…

摩擦係数と荷重3-3

早手亜矢子は特に目立つ行動を普段から取ってはいなかったようだ。つまりそれは、意外な行動を取らないと彼女から事件に結びつく線はかすかなでしかない。事件は被害者からは辿れないのかもしれないと鈴木は車のシートに落ち着けて思う。空はもうすっかり暗…

摩擦係数と荷重3-2

「付き合っている男性はいたと思いますか?」 「さあ」 「早手さんは車を運転しますか?」 「娘はしません」 「そうではなくて、お母さんは……」 「ああ、私ですか?はい、仕事が税理士なので車は頻繁に運転します」 「もう相当運転暦は長いでしょう」 「ええ…

摩擦係数と荷重3-1

鈴木は早手亜矢子の自宅前で車を降りた。夕方。S市の中心街から電車で20分。最寄り駅に駅舎と運転所。運転所には様々な車両が留置され職員の自家用車も多数駐車されていた。 白い腰ほどの門扉。インターフォンを押す。遅れて、か細い声で返事。 「O署の鈴木…

摩擦係数と荷重2-5

「もういただいています」 「そうですか。ごちそうさまです」 「またのおこしを」出しそびれたお金を熊田に差し出すが彼が受け取るわけもなく、すたすたと駐車場の車に乗る。鈴木は自分の車に乗り込むと、エンジンをかけて先に出てしまった。 「これ受け取っ…

摩擦係数と荷重2-4

熊田は美弥都が指摘した事実のみを見つめる、という言葉で事件をさらってみた。美弥都にその後の具体的な講釈を聞きたかったが鈴木の注文のために仕事が生まれてしまい、美弥都とは話せなくなった。 鈴木のアイスコーヒーの出来上がりまでに、カウンターとテ…

摩擦係数と荷重2-3

「事件についてなのですが」 「それはあなた方が考える事ではありませんか?警察に協力するのが市民の義務だなんて俗っぽいことは言わないでくださいよ」 「考えてはいますが、なにぶん頭が悪いので。どうも分からないことが多くて……」 「なにがわからないの…

摩擦係数と荷重2-2

事件か事故かまたは自殺かの区別、線引きはなされたのか。もしくは、線引き自体がそもそも捜査を混乱させているのではとも思っている。複雑に絡んだ糸が解いてみると一本ではなく二本も三本も絡み合っていた。これと似ている。決め付けての捜査はむしろ形を…

摩擦係数と荷重2-1

暖簾が風に揺れる。雨から逃げるように二人は店内に駆け込んだ。 「いらっしゃい」今日は先日の女性の姿は見えない、声をかけたのはこの店の店主であった。年齢は50代ぐらい。熊田たちはカウンターに座るなりコーヒーを頼んだ。男女2名がテーブル席に一組、…

摩擦係数と荷重1-5

「ずいぶんとまともな答えが言えたな」 「そうですかねえ、」 「お前が言う信憑性のある証言の裏はとれたのか?」 「はい、その店に言って店員に顔写真を見せましたが、目撃された正確な日時があいまいなので覚えているものはいませんでした。彼女が訪れたの…

摩擦係数と荷重1-4

「なにもありません」額の汗を拭い種田がもう証拠品の捜索は必要ないと訴える。全身にはじっとりと気持ちの悪い汗を掻いていた。 「そうだな、もう体裁はこのぐらいで終わるだろう」熊田の言葉どおりに、2人が道路の歩道を分ける白線の内側の段差に腰を掛け…

摩擦係数と荷重1-3

鈴木は到着後から40分前後で現場から去っていく。上層部から早急に二件の事件の関連と今後の対策、犯人の行動予測を報告するように伝えられていた。一件目から事件性を疑い増員をかけていれば、焦りを末端の熊田たちにまで露呈させる段取りの悪さが伝わらな…

摩擦係数と荷重1-2

明けて翌日。午前八時。快晴、ここ数日は晴れが多いと、たったの数日のデータだけで思ってしまう熊田であった。昨夜の現場に車を止めると、窓を開けておいしそうに朝食代わりに煙草を吸う。後方からエンジン音、収束。鈴木の車である。種田も同乗している。 …

摩擦係数と荷重1-1

「こちらです」車を道路脇に止めて、2人は現場に降り立つ。場所は、昨夜の現場から直線距離にして2キロ弱の工場地帯、人気のない道路である。道路の中央には川が流れており落下防止の柵で囲われている。片側一斜線の中央に自然の分離帯。現場は野原と歩道の…

空気には粘りがある6-2

「すいません。後続車が運良く走行していなかったと仮定しても、投げ出されたのが事実であるなら犯人は複数ですね」 「崖の上から落とした可能性は?」 「それは無理だって熊田さんがおっしゃいました」 「そうだったかな、覚えてない」 「しっかりしてくだ…

空気には粘りがある6-1

熊田は軽い食事を、種田はコーヒーだけを飲み栄養と英気を養った。検死報告の結果がそろそろ出てきそうなので、二人は一度署へと戻っていく。現場は依然として保存状態を維持し、隣接する道路の通行にも若干のわずらわしさを残していた。 O市本部が熊田たち…