コンテナガレージ

サブスク・日常・小説の情報を発信

自作小説

本日はご来場、誠にありがとうございました5-4

「なんとなく……。ようは、その場所に犯人がいたという事実じゃなくて、死体とか現場の状況とか、犯人しか知りえない情報をですよ、こうぺろっと口を滑らした、とまあ、こういった寸法です」 「また、あんたは適当に言っちゃって、少しはね、料理のほかに使用…

本日はご来場、誠にありがとうございました5-3

「ですよね、店長は……、当然知らないですか、すいません、聞いた私が浅はかでした」 「ブルー・ウィステリアなら、昨日営業を再開したわよ」国見は話を聞いていたらしい。 「蘭さん、情報通。もしかして、店に足を運んだとか?」 「店長に渡した端末の代用品…

本日はご来場、誠にありがとうございました5-2

それから二週間後。 ビルの新装開店の日取りに、移転先の店を開けた。店名はワンハーフポイントと名づけた。二号店でもなく、一号店とはいいにくく、しかし店のコンセプトは正しく継承してる意味合いを込めた。まあ、店名などその場所に店があれば、お客は来…

本日はご来場、誠にありがとうございました5-1

調理器具の到着、その連絡の二十二分後に四杯分の料金を支払い、店主は仕事に戻った。ちょうどテイクアウトの樽前に搬入器具の説明が終わった場面に飛び込み、それから三十分ほど宇木林に設置器具のメーカー、ヘルメットを被る内装業者と細かな不具合と使い…

本日はご来場、誠にありがとうございました4-3

「停電のあの日、私はあなたと同じ光を見た。ブルーとも紫ともいいがたい、色だったわ。綺麗だった、空に届いて光が居場所を見出した。みられたの、あなたと視線の先を合わせられた。それだけで十分だし、そこで理解した。ああ、私はあなたの視界を外れても…

本日はご来場、誠にありがとうございました4-2

「私という付き合う恋人がいながら、他の人と付き合う。これは私にとってありえない、異常性の高い、目にあまる、耐えがたい光景だわ。認識はそれぞれ違って当然、あなたには私がそう見えた、私にはあなたがこう見えてる」 「……いつから?」 「いつ?はじめ…

本日はご来場、誠にありがとうございました4-1

もう一名のお客の性別は男だと判明した、店主の真後ろ、背もたれを挟む体温と低音の声が感じ取れる。盲目の女性の大立ち回りに応えた声が室内に散らばった無秩序をかろうじて取り集めた。レッテルが貼られた、あるいは名詞が冠された、とでも言おうか、男と…

本日はご来場、誠にありがとうございました3-4

「発見時間のずれ、それからうーん、被害者の身元の発覚、それから、あなた方の到着と捜査の開始はおよそ、想定の範囲に収まったでしょう。店側に息のかかった人物が死体を発見、身元はいずれ発覚するように関係各所の微調整と連絡をつけた。進展状況などは…

本日はご来場、誠にありがとうございました3-3

鈴木は店員を解放する。 「違うとは言い難い、ようです」鈴木は苦笑いを浮かべた。「うーんなんとも要領を得ないというか、豆によっても抽出ですか、お湯を注ぐ温度や湯量も異なって、機械を使った場合、あっと、わっとなんだったか、ハンドドリップだとかな…

本日はご来場、誠にありがとうございました3-2

作り方か、……より具体的に示したということか、うんうん。 「納得されたようなので、その考えを音声に変換しなさい」 「種田、おまえ、馬鹿っ、誰にでも通用すると思ったら大間違えだぞ」 「構いませんよ。意図的にこちらの感情を逆なでする、目的が明らかで…

本日はご来場、誠にありがとうございました3-1

「質問を変えます。あの女の発言を紙にまとめた内容が一部不可解に思えて、理解に及びません」 「それを私に応えろと?」店主はいう。 「先ほどの質問は回答を拒否されたので」 「日常会話でも相手のプライバシーや当人が気に留める内容に触れた場合、黙秘を…

本日はご来場、誠にありがとうございました2-7

「おそらく事件の公表は正当に情報開示が行われた。しかし、それと今回の集団卒倒を結びつける材料が極めて少ないのです」 「と、いいますと?」灰皿を叩いて、リズムを取った。僕は煙を吸い込む。 「ブルー・ウィステリアの番地ですよ」鈴木が言う。「明治…

本日はご来場、誠にありがとうございました2-6

「その方に家族は?」 「ええ、妻と娘がいます。被害届けは……、はい、提出されてませんね。会社側が異常事態だと奥さんに告げても、取り合ってもらえなかったということです。なんでも、以前から外泊が多くて、家に帰ることは少なかったと。仕事の煩雑期は自…

本日はご来場、誠にありがとうございました2-5

「伝えたときは事実でありました」 「なんら落ち度はなかった、そうおっしゃりたい?」 「いいえ、初めて飛行船協会を訪れた際に飛田の正体を見破れるでしょうか?」 「尋ねたのは私です」 不穏な空気を察して鈴木がフォロー。「正直、事件の翌日に飛行船協…

本日はご来場、誠にありがとうございました2-4

「私が吸います」店主が言った。種田を見つめる、この程度の譲歩は受け入れて欲しい、そう目に意思を込めた。 ブラインドが下げられる。ウエイトレスが気を利かせたらしいが、僕はすぐに体をねじって、外が見える程度にブラインドの羽を調節してもらう。 体…

本日はご来場、誠にありがとうございました2-3

「店長さんが、その、なんといいますか」挨拶以後、種田との会話を見守る鈴木が言った。「集団卒倒の原因と、S市警察が疑いをかけてまして……」 「もう、屋上の死体の身元、犯人は捕まったのでしょうか?」店主は話題を変える、鈴木たちの質問に答える価値を…

本日はご来場、誠にありがとうございました2-2

幸い、開店間もない時間が功を奏したのかどうかは、正しい状況説明とはいえないけれど、ウエイトレスの特段に興味を湛えた視線、彼女の一人分の関心が留まったのだから、上出来だろう。正午過ぎのかきいれどきだったならば、目も当てられない、それこそこの…

本日はご来場、誠にありがとうございました2-1

見計らったと勘ぐるほどに席に着くと端末が震えた。慣れていないと飛び起きそう、心の準備が必要なぐらいだった、……通話後に設定を変えなくては。 「はい」電話の応答とウエイトレスの注文が重なる、メニューを指差して、一人にさせてもらった。僕は腕輪に呼…

本日はご来場、誠にありがとうございました1-5

僕の店を通り過ぎる。深夜から作業が行われ、日中は音の出る作業を控えて取り掛かるらしい、近隣店舗の兼ね合いがこうした密集区域では至上命題とも言えるし、これを怠ればギスギスした関係性が生まれ、大事に発展しかねない、とまあ、後半は最悪の事態、考…

本日はご来場、誠にありがとうございました1-4

「ええ、今日からです。うるさいでしょうけれど、大目に見てください」 「いいえ、僕は後からやってきた新入りですので、意見なんて言えた立場ではありませんから、はい」樽前は気後れしたようで、数秒虚空を見つめるように、僕を視線を合わせた。背後で音声…

本日はご来場、誠にありがとうございました1-3

店の斜向かい、テイクアウトの行列に店主は並んだ。前を通りかかったときは、ちょうど店のオーナー、樽前は背を向けていたので、こちらの存在には気がついていなかった。列は十人、いいや九人が並ぶ。朝方の六時過ぎ。こんな時間から働く人はいるものだ、そ…

本日はご来場、誠にありがとうございました1-2

しかし、地上に上がったはいいものの、店に入れるわけではないのだ。 昨日の日曜から耐震工事がとうとう、というか移転が決まるや否や、移転先の内装が決まったのが先々週の始め、路上で倒れた通行人の介抱に当った二日後で、その翌日には今日の日程が組まれ…

本日はご来場、誠にありがとうございました1-1

S市の中央区仲通りで起きた集団卒倒は、通信端末ブルー・ウィステリアの新製品が要因と特定された。体調不良を訴える患者は全国で八百万人を超え、発症予備軍は更に三百万人との推定が経済省の調べで発覚した。現行は製品の使用中止を訴え、先週までに耳鳴り…

ご観覧をありがとう。忘れ物をなさいませんよう、今一度座席をお確かめになって9-7

「はい」 「無事だったようね」数時間ぶりの再会?会ってないのだから、再会話とでも言おう。 「ええ、手荒なまねを受けました。あなたが出してくれたのですね」 「そういうことにしておいて。あまり電話では喋れないの」盗聴を警戒した発言、彼女の敵とは何…

ご観覧をありがとう。忘れ物をなさいませんよう、今一度座席をお確かめになって9-6

何のことだろう、従業員といえば、舞先しかいない。しかし、彼女は雇われた身分、要するに電話口で別れを告げた女性が派遣したこちらの内情を知る人物。いわれのない罪が降りかかろうとしている、けれど妙に達観した観測は続くらしい。だって、彼女の忠告と…

ご観覧をありがとう。忘れ物をなさいませんよう、今一度座席をお確かめになって9-5

「じゃあ、ホットドックを用意してください。安っぽくて、妙に固く、しかし食べ応えと飽きのこない味のやつを」 「研究者って味覚の鋭敏さを嫌う人が多いのね、どうしてかしら、おいしさは思考過程で除外されるんだろうか……」彼女は電話口で考え込む、悠長に…

ご観覧をありがとう。忘れ物をなさいませんよう、今一度座席をお確かめになって9-4

「洗いざらい僕の身辺は洗ったんじゃないのですか?」 「そのつもりだけど」ポーンとエレベーターの着地音が受話器の彼女の背後に聞こえた、ビジョンが鮮明に浮かび上がる。やはりホテルにいるらしい。 「逃げるべきですかね」 ドアがノック。二回、叩かれた…

ご観覧をありがとう。忘れ物をなさいませんよう、今一度座席をお確かめになって9-3

「はい」 「あら、ごめんなさい。いい気分で眠っていた?」女性の声だ、低音で声に香水が含まれてるみたいに、艶やかだった。 「眠ってはいない。まだ、午前中ですよ」 「そうね。それにしても、チェックインの時間早々に部屋に篭ったっきり出てこないつもり…

ご観覧をありがとう。忘れ物をなさいませんよう、今一度座席をお確かめになって9-2

選択肢はあまるほどに、手に持ちきれないほど、こぼれんばかりに、否、残されたものたちは私の無意識の選択によって予備予選なるものを通過してるんだ。仕方ない、無意識の仕業、これまでの私を形作る、いわば戦友だ。無下に扱っては罰が当る。そうだろうか…

ご観覧をありがとう。忘れ物をなさいませんよう、今一度座席をお確かめになって9-1

もう駄目かもしれない、私の開発人生は幕を閉じようとしてる、今後の生活?ここが最到達点だ、これより下に下りたい、と誰が心底願えるのか、興味深い研究対象ではある。だが、私はせまり来る魔の手に抗う術を見出さなければ。 ホテルの一室、最上階のスイー…