コンテナガレージ

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自作小説-五月二十日は鉄板を以って制す

ガレットの日2-5

店長はサイドに切れ目を入れて、生地を半分に開く、ハンバーガーのお尻がかろうじて繋がる感覚を採用した。これで一口が小さくても、上と下の生地を一枚ずつ食べれば、問題は無い。実食。店長は頬張る。うん、合格。 次には中に入れる具材だ。あまり肉を多用…

ガレットの日2-4

「言いましたね、聞きましたね。田所、証拠は撮った?」真柴は嬉々として田所の腕を掴む。田所がおもむろに腕にはめた真四角、角がとれた時計を突き出し、表面を指先で触った。完了、作業の終了を伝える音楽が流れた。どうやら、録音をしていたようだ、テク…

ガレットの日2-3

「副会長、本題に入っては?」田所が助言する。 「そうね、店長さんよね、あなた。オーナーも兼任してる、間違いありませんね?」話が振られた、息を潜める店長はひっそりと顎を引いた。これでも合図は送ったつもり。 「翌日のメニューは監視させますよ、抗…

ガレットの日2-2

「明日のランチではガレットを作ること。以前にコンソメスープを販売したのは記憶に新しいと思います。忘れたとは言わせない」彼女は通路の突き当たり、トイレまで歩き、振り返った。「一品でも私たちに断りなくフランス料理を販売したのだから、こちらの要…

ガレットの日2-1

「フランス料理促進普及協会の田所と申します」男爵という形容が適切。突然姿を見せ、自己紹介する人物は得てして可能な限り面倒で自己主張が強い、と店長は思っている。まずもって、意見を持たざる人物が名乗ることは決してない、押し通したい意見があるか…

ガレットの日1-2

空気を抜いたハンバーグ満載のバットが一枚完成、その上にもう一段バットを重ねる。バットにはハンバーグが張り付かないようにラップが敷いてある。 「ガレットを出すべきです、ランチタイムに」小川が薦める。 「ハンバーグは明日のランチの仕込みだよ」 「…

ガレットの日1-1

今回のイベントの勧誘に若干のあざとさ、思索的な意識が垣間見えた。island nation in the far eastの出店から約二週間が経過した。従業員の体力平常どおりに戻った六月最終の月曜日である。 焼きそばパンはあるか、焼きそばパンは売ってないの?焼きそばパ…

焼きそばの日10-7

会場の雰囲気を体感した店長は川上に帰る合図をして、関係者側から一般の通路に出た。 その時、バンッと電源が一斉に落ちた。花火が打ちあがったと錯覚するほどの爆音であった。会場が静寂に包まれる。 そして、ざわめき、短い悲鳴も聞こえた。 音は完全に落…

焼きそばの日10-6

会場入り口の柵に寄りかかって、小さなステージの演奏を聴いた。遅れて聞こえる音が体の動きとのずれを生じさせる距離。花火の違和感だ。店長は、タイムラグを嫌って次の散策場所を目指した。 会場内を張りめぐらされた歪な導線は失敗作、来年の課題の一つに…

焼きそばの日10-5

「……営業停止にはならないんですね。はい、了解しました。いいえ、口論には発展していないようです。お客の一方的な訴えだったようです、これから詳細を聞き取ります。文書での報告ですか?必要ないでしょう。店に並んだお客が一連の状況を観測していたみた…

焼きそばの日10-4

「おい、客だぞ」凄みを利かせたらしいが、小川はまったく動じない。口元の筋肉は緩みっぱなし。「ネットに書き込んでやるよ、はっ」 「みなさーん」小川が窓から顔と右手を出して、大声で頼み込んだ。「このお客さんが髪の毛が入った商品を危うく食べそうに…

焼きそばの日10-3

丁寧に国見が対応、お客の声もか細いながら要求の主張ははっきりしている。また、アイスパンの注文だ。 女性、奇抜な髪色、髪形の奇抜さは髪色と行動で薄れた。女性が注文、会計。そして列を逸れる。店長は行く先をおぼろげに視界に入れていた。彼女はふらり…

焼きそばの日10-2

午後三時。アイスパンの販売を解禁。再び列が作られる。お客が一人倒れて運ばれた。アナウンスでは水分の補給を訴える。サイレンみたいだ。 午後三時半。国見が焼きそば用のコッペパンを持って戻る、テントまで運んでこちらは一往復で完了。会場スタッフが手…

焼きそばの日10-1

六月第二週。十三日の金曜日。午前八時に保健所の検査をパス。監査時間の事前通知は、監査といえるのか、口に出しそうな音声を店長はつぐむ。 午前十時に開店。会場が開く時間と同時刻。軽装の観客が我先に目的の会場、ライブステージに駆け出していく。お客…

焼きそばの日9-6

「私にも内緒ですか、先ほどの上川さんとの会話の内容については」前の車両の左折に合わせた減速、再びの加速に乗じて、国見がきいた。 「うん。あっちが内密を求めたからね。約束はしていないけど、聞いてしまった以上、話は口外しない」 「誠実です」 「そ…

焼きそばの日9-5

「馬鹿みたい、言ってないで、お前は道を覚えたのか?」館山はぐっと小川を引っ張ったようだ、後部座席から伝わる振動。道はまっすぐに伸び、三車線の道路は快適に車が走り抜ける。 「私も覚えるんですか?」 「私とお前に運転の代役が回ってくるかもしれな…

焼きそばの日9-4

「警察への連絡は禁止されています。あの、どうすれば?」 「私に聞かれても。それこそ、あなたは何を懸念しているのか、その辺りが解せません。出店を取りやめることに何かデメリットがあるようには思えませんけど」 「そこなんですよ!」ハイエースに寄り…

焼きそばの日9-3

「……焼きそばの日に合わせてランチを出しましたね?」 「そうです」 「焼きそばの日は去年から日程をずらしたんですよ、翌月に」 「勝手な改変が一声で可能な世界か、私とは無縁であって欲しい、一生」店長は驚くふうでもなく、煙を吐く。立位置が入れ替わり…

焼きそばの日9-2

「どうされましたか?」地方の県議会にいそうな誤った意思疎通の仕方。店を訪れた時の印象にはなかった。日焼けした顔に快活な漲る目力、複数の人物の接触による大仰な態度の形成だろうか。こうやって人は自らの本心を守るらしい。店長は変わり果てた、本人…

焼きそばの日9-1

週末の日曜、S駅が待ち合わせ場所。店長は駅隣接の店舗でレンタカーを借りる予定で地下鉄に乗り、赴いた。指定した北口のロータリーには国見のほか、二人の人影が見て取れた。結局、従業員一同でホームセンターに向かうことになったのである。 一行は、レン…

焼きそばの日8-3

さらに日が明けたその翌日、これまたランチ終了後の午後のひと時。フェス用メニューの提供時間を計った。店長は従業員たちの休憩を一時間から三十分に休憩時間を減らす。ただし、午後のお客の出足が悪ければ、順次休憩を追加して取らせるつもりでいた。 問題…

焼きそばの日8-2

その日、店長は久しぶりに休憩を取って、フェス用のパンの相談にブーランルージュを訪れた。無口な主人と会話は、一言二言。あまりにも傍目から不安視される言葉数の少なさだったようだ。しかし、言葉は多くをすべてを日本語に頼って詳細に語れば伝わるとい…

焼きそばの日7-3

「……正直、わからなくなります」館山は弱音を吐いた。開発を決意してから絶対に後ろ向きな発言はしないように心がけていたのに。しかも店長の前でなんて、言葉を取り返したかった。でも、つい、うっかり、頼りたくなった。 「わかる必要なんてない。相手にな…

焼きそばの日7-2

館山はロッカーから銀の包みで光を反射するショルダーバッグタイプの保冷バッグを持ち、カチコチに凍った食パンを取り出した。店長はじっと彼女の手技を見守って、一言も口を出さない。ありがたいことだ、と彼女は思う。通常は、ここで疑問や嘲り、批判が待…

焼きそばの日7-1

「その顔だとメニューは固まったみたいだね」彼女がドアを開けるなり、店長が口を開いた。めずらしく機嫌がいい。早朝はいつもむすっと固めた顔が当然のごとく、お決まりなのに。今日は私にあえて、いいや、館山はこれから再現する味の出来栄えに集中を高め…

焼きそばの日6-2

来場者の多くは道外からの旅行者だと聞いた。観光がメーン、そのついでにフェスを訪れる、というのが主催者側の見解である。一人で来るのか、はたまた二人以上か……。そもそもライブは単独コンサートと同軸の位置づけではない、とも言っていた。会場には四つ…

焼きそばの日6-1

先週、館山が主張する販売メニューの追加を流して、かれこれ一週間が経過。陽気は太陽が沈むごとに暖かさがじんわりと生活に忍び寄る。北海道の気候も様変わり。気温は世界的な上昇傾向にあった。夏の暑さが定着する時期が早くなったように思う。当日の気候…

焼きそばの日5-3

「即答はできない。僕は作らない方向で考えを進めてきた。君は休憩時間を削ってメニュー開発に夢中になった。その努力は買う。だけど、今日も味付けの単純な調味料の取り違えで大幅な時間ロスを発生させた。ミスは当然に僕は自分も含めてすべてに寛容であり…

焼きそばの日5-2

「三十万とか、高いと四十万です。もっとも広告を打って雑誌に載ったりメディアに取り上げてもらったりを待つよりかは、効果的な宣伝が期待できる」 「おいしい、とは思う。ただ、それを家に帰って、街のどこかでその時食べた店の味をもう一回味わう気分が再…

焼きそばの日5-1

出店の日取りが決定、連絡は電話と文書で伝えられた。ロックフェス出店の決定は国見蘭に多少の驚きと動揺を与えた。だけれども、即座に店長のことだからと、意見を肯定に覆す。店長は私の預かり知らぬところ、店にも届きそうな領域で考えを紡ぐのだ。私など…