コンテナガレージ

サブスク・日常・小説の情報を発信

2020-01-01から1年間の記事一覧

摩擦係数と荷重7-8

「よろしいのですか?」女性が目を丸くして反論を込めて問いなおす。 「仕事に焦りを感じながら作成するとどうしても歪や完成を急いでありきたりの商品にしかならない。雑誌からすれば、穴を開けられないのだろうがいくら前に仕事しているからといって相手方…

摩擦係数と荷重7-7

案内をした女性がコーヒーを運んできた。香り立つ白いカップからの豆の匂い。缶コーヒーばかりのここ数日からやっとありつけた本来のコーヒー。 「タバコを吸うなら吸っても構いませんよ?」熊田はどうして自分が喫煙者であるとわかったのか、不思議であった…

摩擦係数と荷重7-6

ドアががあるべきだろう場所は洞窟の入口のようで、いきなり巨大な空間が眼前を襲う。外観からの想像をはるかに超えた天井の高さと、空間の広さである。まさに体育館そのもの。天井に張り巡らされた無数の金属はどれもまだサビを知らない状態で若々しさを保…

jvc「ha-s68bn-b」のレビュー【マイク付きワイヤレスヘッドホン】

jvc「ha-s68bn-b」マイク付きのワイヤレスヘッドホン・jvc「ha-s68bn-b」について、製品の概要をはじめ、実際に使用したレビューをまとめました。基本性能を網羅したワイヤレスヘッドの購入を考えている方は、jvc「ha-s68bn-b」を候補の1つに加えてみましょ…

摩擦係数と荷重7-5

バスの右折でようやく視界がパッと開けた。上り坂を直進、信号はない。十字路の一角に個人経営の商店が見えたが、シャッターは閉まっていた。まだ先へまっすぐ進め、カーナビの点滅と目的地付近を知らせるアナウンス。 「どこだ?」 「あの家です」種田がぴ…

摩擦係数と荷重7-4

「内部の人間が犯人である可能性を捨てたわけじゃあ、ありませんから」熊田は涼しい目でそれに応えた。 「身内を疑っているのか?」 「あくまで可能性が少しでもあるかないかですよ」熊田は話していて、自分が種田に似ていると思えた。椅子に預けていた体重…

摩擦係数と荷重7-3

鈴木が恐る恐るタバコを隅に寄って吸い始めると熊田はいつものムスッとした顔でブースを出ていく。行き先は会議室である。 鑑識の神は泊まりのようだ。のけぞった姿勢で背に持たれて座る神がドアを開けたばかりの熊田と目があった。神の無精髭が目立つ。 「…

摩擦係数と荷重7-2

朝食をとる習慣のない熊田は、コーヒーでその糖分を補っている。美味しくはない缶コーヒーにも幾らかの使い道はあるようだ。セットで嗜む嗜好品のタバコもついでに吸おうと思い、廊下の自販機でコーヒーを購入。ぐびっと一口飲んで隣接の喫煙所で今日の一本…

摩擦係数と荷重7-1

次の日。空は高く青々とどこまで終わりのない永遠を思わせる表情。駐車場から署内までのほんの数メートルでも日差しの暑さを身にしみた。まだ体が夏仕様に切り替わっていない。冬の名残を惜しんでいる。寒さを羨むのもそう遠くないだろう。熊田は入り口脇の…

摩擦係数と荷重6-3

「そうですか。では、どなたとお会いになっていたかを教えて下さい」熊田の両手が軽く合わせられる。 「これはクライアントのプライバシーを損害します」顎を引いて彼女のぐっと柔らかい目元が強く細くなる。 「これはもう事件です。あなたの娘ともう一人の…

摩擦係数と荷重6-2

加藤税理士事務所と看板の架けられているようだ、ライトアップが消えていたから近くまで寄らないと見えないのだ。階段を上り二階へ案内される。鍵を開けて早手美咲はドアを開けた。室内は30畳ほどの面積でパテーションによる区切り、机や背の低い棚が配置さ…

摩擦係数と荷重6-1

警官と入れ違いに鈴木が戻ってきた。缶コーヒーを二人に渡す。 「スーパーって安いんですね。3本買っても200円でお釣りが来ましたよ。あれっ、どうしたんです?」 「なんでもない。遠慮なくもらっておくよ」 「私も」 「なんか怪しいなあ、もしかして二人は…

摩擦係数と荷重5-7

じっと建物の外観を凝視していると、窓が叩かれる。種田は窓を5センチほど開けた。 「ここで何をしてるのです?」声をかけてきたのは制服警官であった。交番は目と鼻の先にある、見回りの途中かもしくは近くを通りかかった近隣住民が怪しさ満載のこの車を交…

摩擦係数と荷重5-6

マンションと病院が角に建つ交差点を右折。下り坂を下って道なりに進む。正面左手に、H駅に隣接する大型スーパーが見えてきた。 「事務所はH駅の周辺のどのあたりだ?」バックミラーで熊田は鈴木に尋ねる。 「駅のロータリーに入ってください」道路を横切る…

摩擦係数と荷重5-5

二杯目のコーヒーを注文する。店内には賑やかに、夕食を摂る人々が集まりだす。一人の客がその大半であった。一人暮らしにおいての食費は自炊よりも外食の方が安いと言われる。果たしてそうだろうか。一から作る手間や出来上がるまでの時間が惜しいだけでは…

摩擦係数と荷重5-4

「ここは喫煙席ですか?」カップを口元まで運び優雅にゆっくりと止まることのない動作で種田はコーヒーを飲む。鈴木が種田を見計らって言った。 「ここに灰皿がある」 「そういえば、入店時にタバコを吸うかと聞かれませんでしたね」 「全席喫煙席かな」鈴木…

摩擦係数と荷重5-3

行きに見かけた国道沿いのレストランに車は止められた。熊田からどこで何が食べたいとの要望を聞く機会は設けられないで独断で昼食場所はファミレスと決まる。刑事という職業に就いているからなのか、鈴木と種田は嫌な顔をひとつも見せずにいた。日々時間に…

摩擦係数と荷重5-2

「明日の仕事のために資料を作成しなくてはならないので」母親はためらうことなく瞬時の回答。後ろめたさが察知できない。 「大変ですね。では、7時に事務所でお待ちしています。はい、失礼します」 「4時か。まだ4時間もあるぞ」熊田は鈴木の開け放たれた…

摩擦係数と荷重5-1

「もしもし、相田さん?」 「なんだよ?こっちは忙しいんだ切るぞ」 「ああ待ってくださいよ、ちょっと調べてほしいことがあるんです。すぐに済みますからお願いします」 「ったく。で、なんだよ調べてほしいことって?」 「早手亜矢子の捜索願を調べて欲し…

摩擦係数と荷重4-5

「しかし、母親が関与している可能性があるということですか。そんなぁ風には見えませんでしたけどね」 「先入観を持たないほうがいいですよ」種田は窓を閉めながら答える。信号が青に変わる。 「でも、娘が亡くなったのには全くの無関係だからこそ、現場近…

摩擦係数と荷重4-4

受付のもう一人の職員、店長と名のついた札を胸つけた人物がテーブルに置いたノートPC画面に指をさして言った。 「この方ですね」車の貸出時間は午後4時、借り主は早手美咲と明記されていた。 借り主の住所に見覚えのある鈴木が声を出した。「あれっ?これ…

摩擦係数と荷重4-3

「廊下で今さっき戻ってきた奴から聞いたばかりだ」熊田たち以外にもどうやら動いている捜査員は存在しているようであるが、種田は会ってもいないし、見てもいない。「犯人がレンタカーを借りていたと仮定を立てると、遠くからの来訪となる。現場付近にレン…

摩擦係数と荷重4-2

被害者は女性、人間である。体には無数の傷と死因の鈍器による殴打。死亡推定時刻は午後9時から深夜0時にかけて。死体の発見は通報者と同一人物。思い出した、通報者の証言をもとに捜査を始めたのだった。そうだ。もし発見者の彼女が現場を通らないとすると…

摩擦係数と荷重4-1

現場に残されたブレーキ痕からタイヤ及び車種の特定には至らず捜査は振り出しに戻り淡い期待も消えた。それ以降の先週はめぼしい収穫はない。そろそろ疲れの溜まり始めた熊田たちであったが時間通りに出勤してきた。今日は、直接現場には向かわずに署からの…

摩擦係数と荷重3-4

「いいや、いい。ただの感だ。根拠なんてない。すまん。忘れてくれ」神は逃げるよう言うと素早く立ち上がり歩いていった。 灰皿を脇に寄せて種田は姿勢よく座り、窓の外、ほとんどが内部が映る景色で落ち着けた。 昔、姿勢が悪いと怒られた。 箸の持ち方が汚…

摩擦係数と荷重3-3

早手亜矢子は特に目立つ行動を普段から取ってはいなかったようだ。つまりそれは、意外な行動を取らないと彼女から事件に結びつく線はかすかなでしかない。事件は被害者からは辿れないのかもしれないと鈴木は車のシートに落ち着けて思う。空はもうすっかり暗…

摩擦係数と荷重3-2

「付き合っている男性はいたと思いますか?」 「さあ」 「早手さんは車を運転しますか?」 「娘はしません」 「そうではなくて、お母さんは……」 「ああ、私ですか?はい、仕事が税理士なので車は頻繁に運転します」 「もう相当運転暦は長いでしょう」 「ええ…

摩擦係数と荷重3-1

鈴木は早手亜矢子の自宅前で車を降りた。夕方。S市の中心街から電車で20分。最寄り駅に駅舎と運転所。運転所には様々な車両が留置され職員の自家用車も多数駐車されていた。 白い腰ほどの門扉。インターフォンを押す。遅れて、か細い声で返事。 「O署の鈴木…

摩擦係数と荷重2-5

「もういただいています」 「そうですか。ごちそうさまです」 「またのおこしを」出しそびれたお金を熊田に差し出すが彼が受け取るわけもなく、すたすたと駐車場の車に乗る。鈴木は自分の車に乗り込むと、エンジンをかけて先に出てしまった。 「これ受け取っ…

摩擦係数と荷重2-4

熊田は美弥都が指摘した事実のみを見つめる、という言葉で事件をさらってみた。美弥都にその後の具体的な講釈を聞きたかったが鈴木の注文のために仕事が生まれてしまい、美弥都とは話せなくなった。 鈴木のアイスコーヒーの出来上がりまでに、カウンターとテ…